組織・人材育成

「私は変わった」と語るスタッフの声からの学び

人をより良い姿に変化しやすい環境を作る組織の在り方
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
少しずつ日が長くなり、季節の移り変わりを感じるようになって参りましたがいかがお過ごしでしょうか。今回はあるクリニックで働くスタッフ自ら「私は変わった」と語った事例から、人をより良い姿に変化しやすい環境を作る組織の在り方を考えましょう。

 ケース:

以下は、あるクリニックに受付として勤めるようになった入職3年目の女性Aさんのお話です。
以前は医療とは関係のない(マッサージ店)職種で働いていましたが、ふと「このままここでずっと働けない」と退職を決め、就活を行ったところクリニックにご縁があり勤めるようになりました。
とは言え、最初はクリニックで働ける自信はなく勤務を続けていけるか心配でしたが、院長先生をはじめスタッフの皆さまはとても温かく接して下さいました。入職当初、院長先生が頻繁に声を掛けてくれたのが印象に残っています。院長先生に「何でも相談してね」と言われても、最初は「エライ人だし…何か怖い」と思い込んで何を言ったら良いか分からなかったのですが、院長先生が「Aさん、何か困っていることはない?」と積極的に声を掛けてくれたり、朝活と称して軽食と共に話を聞いてくれたりすることをとても嬉しく感じていました。

その後、何とか仕事を覚えてこのクリニックに役に立てるよう、医療の知識が足りない私は分からない物事が出てくるたびに勉強するようになりました。ただ、どう勉強したら良いのか分からなかったので、おすすめの本を先輩スタッフに聞いてまわりました。すると先輩スタッフの皆さまも「Aさん頑張っているね!」と応援してくださり、関係が更に良くなっていったように感じます。

ある日、「このまま先輩スタッフにもらいっぱなしではダメだ!」と思い、意を決して「いつも遅くまで勉強会を行っているスタッフ皆さんに、前職の経験で学んだ足のマッサージをしたい」と院長先生に相談しました。常に立位で仕事をされる皆さまは足が疲れているという声を聞いたからです。すると院長先生は快く受けて下さり、必要物品をすぐに買ってくださいました(そんなに高く無くて良かったのに高価なものを!)。
実際に足のマッサージ行うと皆さんすごく喜んでくださり感謝されました。私はもともと引っ込み思案で、前向きに何かしようとするタイプの人間ではなかったのですが、この職場に来て初めて私は変わったと思います。

このケース、どういう感想を持ちましたか?
Aさんは、このクリニックに来てはじめて「誰かのために仕事をしよう」と自然と思うようになり、積極的に動くようになったそうです。Aさん自身が気持ちを察しやすく、優しいお人柄であることもAさんが変化するに至った要素だと思いますが、私はそもそもこのクリニックの環境がAさんに影響を与えたと考えます。
例えば、自分にとって厳しい環境にあることで気持ちを奮い立たせて自らの成長に繋げられる方もいらっしゃると思いますが、それはとてつもなくエネルギーがいるものです。反対に厳しい環境で心身ともに疲弊してしまう方が少なく無いのではないでしょうか。そして、厳しい環境における個人の成長は組織の成長に必ずしも繋がらないという点も付け加えておきます。

このクリニックのように御礼に期待して何かを行うのではなく「してもらっているから、その御礼を返す」という「お互い様の精神」が無理なく自然に成り立つ組織では、組織も人もより良く成長することが出来るとのではないかと、このケースから感じました。
実は、このクリニックは最初からこのような雰囲気ではありませんでした。今のような雰囲気に変化していったのは、「言葉で伝えあうことを大切にしよう」という院長先生自身の変化がはじまりです。
院長先生が「新人だから〇〇だろう」「常識で考えたら〇〇だろう」といった思い込みが信頼関係の妨げになっていることに気付いたことで、「(〇〇だとは思うけども)どうしてそうしたの?」とスタッフの言動の理由を言葉にして聞いて回るようになったのです。最初はそんな院長先生の変化に戸惑っていたスタッフも「院長先生に伝えることで自分たちの過ごしやすい環境に変わる」ことを実感していくようになりました。こうして自分たちの考えていることを言い合える関係性が出来たことで、相手に行って欲しい事を自然と共有し合い感謝し合える環境が整ったことがAさんの変化に繋がったのだと考えます。

「お互い様の精神」は一朝一夕には出来ません。まずはご自身から、掛ける言葉を工夫されてはいかがでしょうか?


【2022. 6. 15 Vol.546 医業情報ダイジェスト】