組織・人材育成

成果に繋がるための話し合いをするために

「収入を上げるという成果に繋がる話し合いが出来ない」と悩むケース
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
寒さが厳しい日が多くなり、都内でも雪がチラつくなど冬らしさを強く感じることが多くなりました。そんな年度の変わり目を前に経営状態を振り返り次年度の目標を立てようとするこの時期に、リーダーがスタッフを経営に巻き込みたいが「収入を上げるという成果に繋がる話し合いが出来ない」と悩むケースをご紹介したいと思います。

ケース:

経営改善に取り組みはじめた、とあるクリニックのお話です。地域に愛されるクリニックを目指すべく、まずは接遇をより良くするためにスタッフ教育を開始したところ、その効果が出てきたことで地元の患者さんが口コミで広がってきたのでした。
収入が改善してきたある日、2番目に売り上げの多かった若手医師が独立することになり、惜しまれつつ退職していきました。残る医師は院長先生と月に2度勤務するベテラン専門医の2名となり、新しい医師を採用することになりました。
ところが、なかなか思うようにフルタイム勤務可能な医師が見つかりません。しかし医師がいなければ思うような売上を上げられないのも事実であり、パートタイムの医師を2名(小さなお子さんがいらっしゃるA医師と、他クリニックでも勤務するB医師、いずれも医師としての経験は独立した若手医師より浅い)採用することになりました。

新人医師の教育に挑戦することになった院長先生。パートのため教育に充てられる時間が少ないこともあり、なかなか思うような成長が見られず新しい医師に業務を任せることが出来ません。収入が改善しない状態が続くことで院長先生に焦りが見られ、今まで良かったスタッフとの関係性も不安定になってきたのでした。

そこで院長先生は院内ミーティングで「もっと効率的な経営を考えよう」をテーマに、全スタッフと話し合いを待つことに。しかし残念ながら院長先生の思うような成果は得られなかったようです。

院長先生「私は『空いている処置室の有効利用』や『診察予約の入れ方の工夫』についてスタッフから話が出てきてほしいと考えていました。しかし、スタッフからは『診療中のスタッフの動き』や『患者誘導』といった小さな話しか出てこなかったんです。私の真剣な思いが伝わってないのか……やれやれという思いです」

筆者「院長先生がミーティングを開いた狙いとスタッフの理解と思いがすれ違う会になってしまいましたね。まず、テーマ設定から見直してみましょう。今回のテーマは『何を目的として話し合うのか分かりやすい』とは言い難いため、個人の理解により発言の内容は様々になると容易に想像できます」

院長先生「言われてみれば確かに……。何となく『こう言えばスタッフは収入を上げるための話し合いだと分かってくれる』と思っていた部分があったと思います。だからこそ『何で分からないのだ』とスタッフを責める気持ちが生まれてしまっていました」

筆者「そうですね。特に今回の場合、なぜ話し合う必要があるのかという問題点をスタッフと共有出来ていない点も、院長先生の思うような話し合いができなかった要因だと考えます」

院長先生「そうでした……経営状態の具体的な話はしていませんし、今思えば『この話し合い、何のために開催されたのだろう』とスタッフは思っていたかもしれません。どうしたら良かったのでしょうか?」

筆者「話し合いを行うに至った経緯から考えましょう。問題があって、それを解決するために話し合いを行ったはずです。問題を解決するためには『なぜ問題が起こっているのか』が分からないと解決のための方法が検討できないはずですよね?今回の場合は『なぜ』が十分に検証されないままに院長先生は『今までの経験から、空いている処置室の有効利用や予約の入れ方の工夫が解決に繋がるはずだ』と考えられたように思います。収入が思うように上がらない原因は本当に『処置室が空いているから・予約の入れ方』なのでしょうか。育成中の新人医師に任せられる業務を検討する必要はありませんか。収入が問題と考えていますが、支出も見直す必要は無いのでしょうか。収入を上げるための様々な方法を検討した上で今のクリニックに最も合う方法が検討されたのでしょうか。このように『今の収入となっている要因』を分析しなければ効果的な解決策を検討することは難しいはずです」

院長先生「そうか……自分の考え通りにスタッフを導けば良いとばかり思っていたことに気が付きました。客観的にクリニックの状態を振り返ることは大切だと頭で理解していても、いざ問題が起こると、自分なりの解釈が正しいと盲目的に思い込んでいたのだと思います。現状を分析するって大切なのですね」

このケース、どのような感想を持ちましたか?
このようにトップであるリーダーが自分の経験値から経営改善に挑もうとすることで、現状分析が疎かになるケースは想像以上にあると考えます。経験値や思い込みの入る余地のない客観的な現状分析をあらゆる角度から行うことで、新しい解決方法が導き出されるはずです。このケースの院長先生も他組織の問題と思えば客観的に考えられたはずですが、問題が起こっている時こそ視野が狭くなるものですね。スタッフと一緒に解決してくためにも、まず解決策を考えるのではなく、現状の分析に時間を割く意識を強く持つことをお勧めいたします。


【2024. 2. 1 Vol.585 医業情報ダイジェスト】