組織・人材育成

中小病院における複線型昇進制度の活用

中小病院における複線型昇進制度の活用とトップマネジメント
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
新型コロナウイルス感染症が発生する前年に、複線型昇進制度の人事・賃金制度を導入した病院で、コロナ禍に院長先生が感染管理に関心のある人材を抜擢し、高度な専門職として育成した事例があります。その人材は、現在、感染管理の専門科長として活躍し、人事評価でも極めて高い評価を得ており、病院にとって不可欠な人材となっています。この病院は中小病院ですが、管理職へ進むコースだけでなく、専門職として進むコースを設ける複線型昇進制度を導入し功を奏したと言えます。そこで、今回は、中小病院における複線型昇進制度の活用について考えます。

複線型昇進制度の意義

従来の日本的な人事・賃金制度においても、複線型昇進制度は多くの組織で導入されてきました。それは、若い時から、自分は管理職に向いているのか、それとも専門職に向いているのかを考える機会が必要だと言われていたからです。これを、自己特性認識と言います。早い時期に自らの進む道を決めてもらい、管理職を目指す人には、若い時から管理職候補として育成したほうが、組織にとっても効率的というわけです。

これに加え、病院においては、特定看護師や認定看護師などチーム医療に貢献する専門性の高い人材を育成し、そのような人材が集まる病院になることで、より質の高い安全な医療の提供が可能となり、自院の人的資本力を高めることにもなると考えます。
さらに、人は難しい仕事にチャレンジすることで成長します。管理職にならなければ、同じ仕事の連続というのでは、成長の機会を逸することになりかねません。専門性を高め、例えば、新たに特定看護師の業務にチャレンジするといった過程で成長できると考えます。

すなわち、複線型昇進制度の意義は、①自己特性認識を持たせる、②チーム医療に貢献する専門性の高い人材(医療技術職等)を専門職として評価し育成する、③難しい仕事を与えるという3つと言えるでしょう。

中小病院における複線型昇進制度の活用とトップマネジメント

中小病院では人材も豊富ではないため、専門性の高い人は管理職として活躍してもらえばよいので、わざわざ専門職コースを設けて運用する必要はないという意見も多く出ます。しかし、中小病院でも、冒頭の病院のように複線型昇進制度を入れて専門職を育成し上手く活用できているところもあるわけです。
中小病院で専門職制度を上手く運用していくポイントは、病院に必要な専門職を明確に示し、そのことに関心のある人材を抜擢し、中級専門職、上級専門職と段階を経て育成することが挙げられます。また、冒頭の病院では、これらの人材は院長の直轄とし、院長自ら指示を出し、報告等を受け、マネジメントを行っていることもポイントでしょう。必要な専門職としては、感染管理、医療の質と安全管理、職員の教育研修、経営管理等が考えられます。院長の包括的な指示の下、組織横断的に感染管理や医療の質の向上等に、専門的な知識を生かして活動してもらいます。特に、病院経営が厳しい時代、経営管理の専門職を育成し、組織横断的に活動してもらうことも有効ではないかと考えます。

専門職昇進の要件としては、当然、人事評価結果等から該当等級をクリアすることを求めます。等級は、専門職として組織横断的に活動する人材であることから、原則、管理の課長と同じ等級に置いてはどうでしょうか。冒頭の病院では、専門主任(中級専門職)での活動状況を評価した上で、専門科長(上級専門職)に昇進させ、等級は管理の科長と同じにしています。
専門性を評価する要件としては、人事評価といった院内の基準(インターナルな基準)に加えて、外部の基準(エクスターナルな基準)を設けるべきでしょう。例えば、感染管理であれば感染管理認定看護師、経営管理であれば医療経営士の資格を有する者など、専門職として必要な資格を要件に加えるとよいと思います。さらには、病院が定めた病院協会や職能団体が行う学会等での定期的な発表なども要件に加えると、専門職としてのスキル向上に役立ちます。専門職コースに進むために、一定の資格や学会活動を評価することで、専門職としての知識と技術の向上につなげるとともに、専門科長に昇進する基準としては、専門主任としてどのような成果を出したのかをしっかりと人事評価で捉えて、その実績を基に上位の専門職に昇進させればよいでしょう。

病院のトップが、運営や経営にとって必要な高度な専門能力を備えた人材を身近に置き、直接マネジメントすることで、具体的な成果が出やすくなります。また、専門職として病院のトップを支えることで、従業員エンゲージメントの高い人材の育成にもつながることが期待できます。


【2024. 4. 15 Vol.590 医業情報ダイジェスト】