組織・人材育成

賃金の公正さと賃金分析

内部公正性と外部公正性
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
先日、クライアントの会議で、ある国家資格には手当が支給され、ある国家資格には手当が支給されていないのは公正ではないという意見がありました。多くの職種を抱える医療機関においては、賃金の公正さを維持することは、企業と比べ、非常に難しいことと考えます。しかし、賃金が公正であるか否かは、職員の採用および定着、さらには働く意欲に大きく関わることでしょう。そこで、今回は、「賃金の公正さ」について考えます。

内部公正性と外部公正性

賃金が公正であるかどうかは、1つには、内部的に見て公正であるか否かが大事です。先述の意見のように、ある国家資格を持っていることを理由に、資格手当が支給されているのだとすれば、人事部長は、その理由を説明できなければいけません。
筆者が関わってきた多くの医療機関などでは、その資格自体を評価し手当を支給しているというよりは、その資格を有して働く職種の賃金の世間相場に合わせるために手当を支給していることがほとんどです。例えば、薬剤師なら、薬剤師の世間相場の賃金水準とするために、医療技術職の中で薬剤師にだけ手当を支給しているというようなことがあるかもしれません。その手当の本質は、資格手当というよりは、労働市場調整手当と言えましょう。労働市場の中で、薬剤師が不足していれば、当然、薬剤師の賃金水準は高くなります。労働市場の中で形成された賃金水準と同水準の賃金を支給しなければ、外部的に見て公正とは言えません。経験5年の薬剤師が、統計的に年間500万円の賃金を受け取っているところ、A病院では700万円、B病院では300万円だとすれば、どちらも外部公正性において問題があることになります。世間相場より極端に低額な賃金で職員を雇用することは公正とは言えませんし、普通に考えれば採用も困難です。また、極端に高額な賃金で職員を雇用することも公正とは言えませんし、普通であれば、経営が維持できません。

多くの職種の職員が働く医療機関においては、賃金の公正さを確認することは難しい面もありますが、大勢の職員を正しく雇用しているか否かの基本的な部分が賃金であることからすれば、年に1度位は、このことを確認することが、人事部門の大事な業務と考えます。

賃金の公正さと賃金分析

賃金の公正さは、職種ごとに、図のような賃金プロット図を作成し、確認を行います。横軸が年齢で、縦軸が賃金です。賃金水準の分析においては、所定内賃金(毎月決まって支給する賃金)が適していると言われますので、今回、図は、所定内賃金を想定して作成しました。しかし、医療機関の場合には、総支給額や年間賃金でもチェックされるとよいと考えます。なお、金額は、統計数値も含め架空のものです。▲のプロットが師長で、■が主任、〇が役職に就いていない看護師です。上の点線が医療経営情報研究所の統計調査、下の点線が厚労省の賃金構造基本統計調査をイメージしています。なお、実線がプロットしたものの近似曲線です。



この図で、内部公正性は、役職者と非役職者との賃金格差を確認します。当然、師長の仕事の責任は重いのですから、水準が高くなければいけません。次に主任となります。この図からは、ある程度、内部公正性は保たれていることが分かります。
外部公正性は、統計数値と比較します。賃金水準を比較する指標としては、厚労省が毎年調査をしている「賃金構造基本統計調査」がよいと思います。
もう1つは、医療経営情報研究所が行っている調査(以下、民間調査)を活用されてはどうかと考えます。
この図の看護師の賃金水準は、厚労省の統計数値と同じような水準を示し、民間調査よりは、水準が低いように感じますが、民間調査でも、若い年代や師長はカーブに乗っていますので、外部公正性においても、おおむね問題はないという判断ができます。民間調査は、例えば、勤続20年で標準的な人が師長であれば、その金額を報告してもらっている関係で、水準が高くなる傾向にあるため、役職者のプロットが民間調査のカーブに乗っていれば問題はないと判断するようにしています。いずれにしても、この分析では、十分ではありませんが、ある程度は公正な状態にあるか否かは分かりますので、公正さに欠ける職種をスクリーニングする上で、必要なことと考えます。


【2022. 8. 1 Vol.549 医業情報ダイジェスト】