組織・人材育成

渋沢栄一の言葉から目標管理の出発点について考える

計画を立て明確にする必要性
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
最近、新1万円札を手に入れました。お札の顔は、ご承知のとおり、 「近代日本経済の父」 と称される渋沢栄一です。若い時から好きな渋沢先生の言葉に、夢七訓があります。この言葉の中に 「計画なき者は実行なし、実行なき者は成果なし」 とあり、計画を立てることの重要性を感じます。
先日、支援している法人が運営する各施設の責任者の目標管理シートを拝読しました。原則として、5項目程度、数値目標を立ててもらうことにしており、みなさん、現状値と目標値は明確に書かれていますので、この目標管理の結果を人事評価に使うことは可能です。目標達成率100%以上であればB評価、105%以上ならA評価など、各評価段階を決めているので、それに合わせて評価を決めればよいだけです。
しかし、目標管理は人事評価のためだけに行っているのではありません。目標を達成してもらい、組織業績を最大化することを第一の目的として行っているのです。また、目標達成に向けた活動の過程で、人は必ず成長すると信じています。すなわち、目標を達成し成果を出すために最も大事なことは、渋沢先生の言われるとおり、計画を立て、計画通りに実行することではないでしょうか。
そこで今回は、渋沢先生の言葉から、目標管理の出発点である目標設定について考えます。

計画を立て明確にする必要性

先述の責任者の目標管理シートには、残念ながら、目標を達成するための計画がほとんど書かれていませんでした。目標管理シートを見直す前は、目標の数値を明確にすることだけを求めた書式でしたので、これでは、人事評価のためだけの目標管理シートに過ぎないと思い、目標達成のための具体的な計画を書く欄を設けて書式を見直したのですが、計画を立て記載することの必要性を十分説明していなかったと反省しています。
施設の事業収入が、前期5億円、今期目標値を5億2千万円と目標管理シートに書くのは簡単です。しかし、目標を達成できなければ、人事評価はC評価となり、賃金が下がるというのでは、何のために目標管理を行っているのか分かりません。単に結果を責めて、賃金という形でペナルティを課しているに過ぎないことになります。
施設の責任者は、パレートの法則から考えれば、自分が運営する所の事業収入の8割を占めている中心となる2割の事業を明確にし、その事業の収入増に自らの力を集中する必要があると考えます。そして、その方策を考え、自らの目標管理シートに具体的な計画として記載し、実行をコミットすることによって、目標達成に向けて邁進することができるのです。そして、計画通りに実行できたものの収入が伸びなかったとすれば、次回は違う方法を考えればよく、計画通りに実行できなければ、途中でその原因を取り除く方策を考えるといった進捗管理も容易にできるでしょう。

目標管理において計画の前にやるべきこと

夢七訓は、次のような言葉で始まります。 「夢なき者は理想なし、理想なき者は信念なし、信念なき者は計画なし」 。すなわち、計画を立てる前に、夢を持つ必要があるわけです。以前、某法人で、ビジョンを語るという研修を行った際、ある介護老人保健施設の施設長が 「日本一だと言われるような施設」 にするというビジョンを語ってくれました。ビジョンは夢よりも具体的なものですから、次のように具体的な将来の姿を語ってくれました。
①職員が皆、常に笑顔で楽しそうに働き、利用者さんたちも笑顔でのんびり暮らしている。
②在宅復帰率が50%を超え、そのサービスの手法に対し、利用者さん・家族から喜びの声をいただいている。
③皆の努力が実り、経営的にも順調に成長している。
④人材難の中、当施設には、優秀な人材が常に集まっている等々、日本一の施設をイメージする姿を具体的に語っていました。
このような夢やビジョンがあるからこそ、そのビジョンに向けた目標や目標達成のための具体的な計画を描くことができるのだと考えます。人事評価のために目標値を書き、その達成のために具体的な計画を書かなければならないのではなく、日本一だと言われる施設にしたいといったビジョンがあって、目標を立てて頑張るということにならなければならないのだと考えます。

目標管理において、PDCAサイクルを回すという話を普段はしていますが、前職で働いている時には、マネジメントサイクルを 「See→Plan→Do」 で考えろという指導を受けました。すなわち、計画を立てる前に、現状等を把握し分析した上で、計画を立てる必要があるからです。
組織を任された責任者は、組織のビジョンを語り、ビジョンの達成に向けて、自らの目標を立て、その目標を達成するために、現状等を把握・分析し、具体的な計画を立て、その実行をコミットし実行していくことができなければならないと考えます。


【22024. 9. 15 Vol.600 医業情報ダイジェスト】