組織・人材育成

「スタッフに恵まれている」? 試されるリーダーの変化

組織の雰囲気とスタッフから見る景色が異なる事例
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
暑いですね!酷暑の中、コロナ第7波にご苦労されていることとお察し申し上げます。組織が緊張状態になると組織の雰囲気を第三者の視点から省みることを忘れてしまいがちですが、組織の皆さまはお変わりなくお過ごしでしょうか。
今回は院長先生が感じている組織の雰囲気とスタッフから見る景色が異なる事例から、より良い組織の在り方を考えましょう。

ケース:

「私はスタッフに恵まれているのです」と話すのは住宅街にあるクリニックの院長先生。院長先生とのコーチングセッションでは涙ながらに「私が頑張っているのではないのです。スタッフが頑張ってクリニックに貢献してくれているのです。うちのスタッフは良い人ばかりだ」と語ります。ただ、私には気になることがありました。それは院長先生から「スタッフが頑張っている」という大まかな評価は大げさすぎるほどに伝わってくる一方、院長先生自身に対する具体的な振り返りや改善点が聞かれないことです。

上村

「 そのように感じられることは幸せですね。どんなことがあったのですか?」

院長
「 ある患者さんから『スタッフの方がとても優しくて安心します』と言われたのです」

上村
「 嬉しいですね~!どうしてそのような組織が築かれたと思いますか?」

院長
「 私がどうこうというより、スタッフが本当に良い人たちなのです」

実はこのセッションの後、このクリニックの管理職のAさんからご連絡がありました。

Aさん
「 実は折り入ってご相談がありまして…院長先生の患者やスタッフに対する言動が気になっています。好き嫌いが激しく、嫌だなと感じている患者さんの対応に本当に困っているのです。
先日もクレームに繋がったのですが『あの患者は変な人だから』と院長に言われてしまいました。私たちが全て尻拭いをしている状況です。
だいぶ前の院長先生の態度に比べたらかなり良くなったことは間違いないのですが、最近はあまりより良くなりたいという動きを感じられなくて…。最近の院長先生は『スタッフに恵まれている』とは言って下さるのですが、そんな私たちに甘んじているのではないかと思わざるを得ません…正直、院長先生と診察室に入りたくないとすら思ってしまっています」

このケース、どういう感想を持ちましたか?
院長先生が仰っているスタッフへの感謝は本心ですし、心からの涙を流されたのは事実だと思います。実際にこのクリニックではスタッフのお名前を憶えている患者さんが多く通われていることから、スタッフ1人ひとりが活躍できる環境が整っています。しかし、日常の中で起こるクレーム等の「あれ?」と思うような出来事から得られるはずの学びに目を向けることが出来なくなってしまっているようです。

チームビルディングはその組織により変化の仕方は当然異なりますが、経験上、現場スタッフの皆さまの改善が比較的早く変化として現れ、院長先生などリーダー層になればなるほど変化が現れにくいと感じます。更に言うと、院長先生などリーダー層が一番組織の変化を感じやすく、スタッフレベルになればなるほど組織の変化を感じにくいということでもあります。スタッフの変化はリーダー層にとって「こんなに組織のために頑張ってくれたのだ!」と、非常に嬉しいものですね。しかし、ここでスタッフの変化だけを見て「組織がより良く変わった」と単純に解釈してしまうことは非常に危険です。ちょっと厳しい言い方になりますが、スタッフが実感出来るほどリーダー層の変化が現れたときに、組織はより良い変化が起きたと評価できると考えます。つまり、スタッフの変化が現れたら院長先生ご自身が「自分はスタッフから見て変化することが出来ているか」と立ち止まって振り返るタイミングと言えます。

先にご紹介したクリニックでは、院長先生のセッションについて「組織がより良く変化していくための次の段階として、院長自身の振り返りを客観的な指標を用いて行いましょう」とご提案しました。そして院長先生の同意のもと、次のセッションまでにスタッフの皆さまに協力いただき、院長先生が気付かないように日常の言動を動画や録音に収めてもらうようにしたのです。院長先生は、その時期は分からずとも録画・録音されていることは認識しているので、Aさん曰く「院長先生の言動が穏やかで非常に心地が良い。以前と全く違う」とのこと。なんと、次のセッションでは院長先生から開口一番「最近何だかスタッフが自分に対して優しい気がします」とのことで「(自分が気付かない録画・録音を)継続していきたい」という発言があったのでした!
院長先生が変わろうとすること、そしてスタッフがそれを後押しすることにコミットしていたために起こすことが出来た組織の変化についてご紹介しました。今でも院長先生は難しい表情をしながらも自分自身の振り返りから気付きの発見を継続しています。このケースから皆さまはどのような学びがありますか?


【2022. 8. 15 Vol.550 医業情報ダイジェスト】