組織・人材育成

「言った」「言わない」の、その理由

相互理解とより良く行動変容を促すことが出来る組織のあり方
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
季節は巡り、秋らしさを感じる日も増えて参りましたね。コロナ対応のあり方も大きく変わろうとするなかでもしぶとく起こるクラスターと対峙しつつ、組織としてどのような対応を行っていくか模索されているのではないかと思います。
今回は変化を迫られる組織で起こった「言った」「言わない」の事例から、相互理解とより良く行動変容を促すことが出来る組織のあり方を考えましょう。

ケース:

ある透析クリニックで看護部門とME部門、そして事務部門が今にも一触即発状態で向かい合っています。どうやら新しい機械が導入されるとのことで、その運用方法の決め方を巡って組織が良くない空気になっています。

看護部門「どこまで何が決まっているのかよく分かりません。他の部門は動いているみたいなのですが、何も情報が無くて…」

ME部門「私たちは新しい機械を操作してみて意見をまとめて提出しました。他の部署がどうしているか知りません」

事務部門「看護とMEとで話し合ってもらいたいのですけど、看護は受け身だしMEは自分たちの主張ばかりで困ってしまっています。私たちは事務部門としてマネジメントをしっかりしているのに…仲良くしてもらいたいですよね」

どういう状況か事務長に詳しく伺うと以下の状況でした。
  •  新しい機械がどういうものか体験できるよう、誰でも使えるように事務部門の一角(看護部門の人は殆ど行き来しない場所)にお試し用の機械を設置した
  •  コロナ対策のため、お試し用の機械を使う人が複数にならないようにスケジュールを入れられる枠を設定した
  •  上記のお知らせは看護部門とME部門両方のリーダーに対して「関係者各位」としたメールで共有した(長文)
つまり、
  •  看護⇒忙しい業務の中で慣れていないメールのチェックが出来ていない&メールが来ているけどよく分かっていない。お試しの機械の場所がそもそも普段通らないところなので分からないし、事務部門と仲が良い訳でも無いため気軽に行き難い。MEと事務部門で何やら話が進んでいるように見え、疎外感がある。
  •  ME⇒メールを見たので「やれ」と言われたことはやったけど、他の部門のことは知らない。看護部門は動いていないようだが、自己責任だと思っている。
  •  事務⇒メールを送ることで話し合いの場は用意した(業務メールは当然隅から隅まで見るべきなので、メール送信後に『メール見ましたか?』等のフォローアップはしていない)と認識しているので、あとは看護とMEが自分たちで話し合って決めるべき(私たちは現場じゃないから実際の運用は分からない)。
という状況になっていました。

事務部門
「2つの部門はお互いに嫌い合っているので感情的になってしまって…。ちゃんと自分たちのやるべきことをしっかりやってもらわないと困っちゃいます」
と頭を抱えています。

このケース、どういう感想を持ちましたか?
それぞれの部門の主張は、それぞれの立場に立つと理解できるものだと思いますし、このようなケースはとてもよくあると思います。そして誰が良い・悪いかではなく、それぞれがほんの少しでも他者の立場に立って考えることが出来たならここまでこじれることは無かったように思います。相手の立場に立って考えるとは、どうすればそれぞれの立場の人が動いてくれるのか考えるということです。

残念ながら、人は相手に何かを言われたらその通りに動く単純な生き物ではないようです。言った通りに動くのであれば、そんな簡単なことはありませんね。しかし矛盾するようですが、言った通りに動いてもらうことが仕事です。言う通りに動いてもらうためには、そのように動く環境を整えることが重要です。専門職が集う医療機関では、それぞれはそれぞれのプロフェッショナル性を発揮してお仕事に励んでいます。個人差による得手不得手もあるでしょう。色々な人が働く職場であることを鑑みた働きかけが重要であると考えます。
そう考えると、情報伝達の手段がメール1つということはリスクだと言えるのではないでしょうか。コミュニケーションの本質は「伝える」ことではありません。コミュニケーションの語源である「共通のものを持つ」という原点に立って考えてみましょう。

組織におけるコミュニケーションで「報連相」が大切と言いますが、私はそれに加えて正しく情報が伝わったか「確認」することも重要だと考えています。この確認が出来て初めて「共通のものを持つ」コミュニケーションが成り立ちます。情報が正しく行き届かないと議論の場に立つことが出来ません。お互いが歩み寄り、お互いが情報を取りやすい方法で受け取ることが出来ているでしょうか。「言った」「言わない」になってしまう状況に出会ったらならば、同じ情報を持つ努力がお互いに出来ているかどうか確かめてみてはいかがでしょうか。


【2022. 10. 15 Vol.554 医業情報ダイジェスト】