組織・人材育成
目標を「共有」して個人の行動を変える
理解をしていることを確認し合うことが大切
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
10月に入り、2022年度も後半戦に突入しました。半年間の振り返りとしてスタッフへ面談を行ったり、年度の目標設定を見直して必要に応じて再設定を行っている組織もあるのではないでしょうか。
今回は「私は常に目指す姿を示している」と話すものの「スタッフがついてこない」と嘆く院長先生の事例から、より良い組織のあり方を考えましょう。
今回は「私は常に目指す姿を示している」と話すものの「スタッフがついてこない」と嘆く院長先生の事例から、より良い組織のあり方を考えましょう。
ケース:
「うちのスタッフは真面目で責任感が強く、日々のお仕事はとても丁寧です。しかし、より良いクリニックを目指したいからついてきてほしいと変化を訴えても、なかなか思うように変化しようとしてくれません」と語るのは、内科系クリニックの院長先生です。院長先生は年末年始等の節目はもちろん、全スタッフが集まる場では常にクリニックの目指したい方向性について言葉にして伝えるように努めていました。しかし、スタッフの仕事のやり方が目に見えて変わったり、スタッフから積極的に組織を変革しようとする取り組みが行われたりしたことは無かったそうです。
この日の全体研修では、第三者である筆者が参加し、院長先生が組織の目指す方向性を伝え、スタッフ各々の年間目標を設定することを目的として開かれました。院長先生の持ち時間は5分。院長先生には「スタッフの皆さまにとって、院長先生が自分たちにどのようなことを求めているのか伝わりやすいよう、『1年後にこういう姿になってほしい』ということを具体的にお話しましょう」とアドバイスをしています。そして、スタッフの皆さまには院長先生のお話の後に質問時間を設けることを伝え、スタートしました。
院長先生「私は皆さんに『基本』を大切にしてほしいと思っています。基本を疎かにしてはいけません。決して、皆さんは基本が出来ていないと言っているのではなく、改めて基本に立ち返ることで応用の幅が広がると思っているのです。各々の職種で基本とすることについて、この1年間は振り返りと理解を深める時間にしてほしいと思います」
時間内に院長先生が満足そうに話終えた後は、スタッフの皆さまの質問時間です。まずは質問をまとめていただくために、スタッフ同士で感想を共有いただきました。すると発言がありません。しばらくの沈黙の後、意を決した様子で、スタッフの中で最も勤続年数の長い看護師Aさんが口を開きました。
看護師Aさん「基本とは何となく分かります。ただ、院長先生の考えていることと合っているかどうか…スタッフみんな分からずモヤモヤしているのではないでしょうか」
よくよくこのAさんにお話を伺うと、院長先生が伝える目指す方向性は今回のように「言葉としては理解できるし何となく伝わるが、スタッフにどのような変化を求めているのか具体的に分かりにくい」ということのようでした。
院長先生は分かりやすい言葉を選んでいたと思っていたので、そもそも伝わっていないことに大ショック!
院長先生「今までスタッフに話をしていたので、話せば伝わっていると思っていました。難しくない言葉を選んでいるし、一緒に仕事をしているのですから何となく伝わるはずだと。いつしか『伝えているのに動いてくれていない』とスタッフを責める気持ちになっていました。でも、『伝える』ことと『伝わる』ことは別なのですね。分かってほしければ、分かってもらえる工夫をしなければなりませんでした」
この後、院長先生はスタッフ一人ひとりとお話をし、各々にとってどんな具体的な「基本」に取り組めば良いか目標のすり合わせを行ったのでした。
院長先生「自分がいかに独りよがりな言葉を使いがちなのかよくわかりました。スタッフに鍛えられますね」
スタッフの行動が少しずつ変わってきた実感があると語る院長先生の表情は、晴れ晴れとしているのでした。
このケース、どういう感想を持ちましたか?
近年、 スタッフを大切にし、スタッフ教育に力を入れる医療機関が増えてきたように感じています。スタッフに対して期待が強く、成長を望む気持ちがあるからこそ、一生懸命に思いを伝える反面、変化しない現状に思い悩む院長先生も少なく無いようです。しかし「こんなに伝えているのに変わってくれない」「こんなに私はスタッフのことを考えているのに」という気持ちは、今回のケースのようにスタッフ目線で考えると違った考え方が出来るかもしれません。このように訴える院長先生には「スタッフはどのように理解しているか確認しましたか?」という質問を投げかけるのですが、不思議そうに「確認しなくても、そんなこと理解していて当然です」という言葉が返ってくることが殆どです。
同じ思いを持って同じ方向に一緒に向かうためには、お互いに同じ理解をしていることを確認し合うことが大切だと思います。「もしかしたら、考え方が違うのかもしれない」「相手は自分が思った意味で理解していないのかもしれない」という前提に立ち、会話を重ねてはいかがでしょうか?
【2022. 11. 01 Vol.555 医業情報ダイジェスト】
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院長先生「私は皆さんに『基本』を大切にしてほしいと思っています。基本を疎かにしてはいけません。決して、皆さんは基本が出来ていないと言っているのではなく、改めて基本に立ち返ることで応用の幅が広がると思っているのです。各々の職種で基本とすることについて、この1年間は振り返りと理解を深める時間にしてほしいと思います」
時間内に院長先生が満足そうに話終えた後は、スタッフの皆さまの質問時間です。まずは質問をまとめていただくために、スタッフ同士で感想を共有いただきました。すると発言がありません。しばらくの沈黙の後、意を決した様子で、スタッフの中で最も勤続年数の長い看護師Aさんが口を開きました。
看護師Aさん「基本とは何となく分かります。ただ、院長先生の考えていることと合っているかどうか…スタッフみんな分からずモヤモヤしているのではないでしょうか」
よくよくこのAさんにお話を伺うと、院長先生が伝える目指す方向性は今回のように「言葉としては理解できるし何となく伝わるが、スタッフにどのような変化を求めているのか具体的に分かりにくい」ということのようでした。
院長先生は分かりやすい言葉を選んでいたと思っていたので、そもそも伝わっていないことに大ショック!
院長先生「今までスタッフに話をしていたので、話せば伝わっていると思っていました。難しくない言葉を選んでいるし、一緒に仕事をしているのですから何となく伝わるはずだと。いつしか『伝えているのに動いてくれていない』とスタッフを責める気持ちになっていました。でも、『伝える』ことと『伝わる』ことは別なのですね。分かってほしければ、分かってもらえる工夫をしなければなりませんでした」
この後、院長先生はスタッフ一人ひとりとお話をし、各々にとってどんな具体的な「基本」に取り組めば良いか目標のすり合わせを行ったのでした。
院長先生「自分がいかに独りよがりな言葉を使いがちなのかよくわかりました。スタッフに鍛えられますね」
スタッフの行動が少しずつ変わってきた実感があると語る院長先生の表情は、晴れ晴れとしているのでした。
このケース、どういう感想を持ちましたか?
近年、 スタッフを大切にし、スタッフ教育に力を入れる医療機関が増えてきたように感じています。スタッフに対して期待が強く、成長を望む気持ちがあるからこそ、一生懸命に思いを伝える反面、変化しない現状に思い悩む院長先生も少なく無いようです。しかし「こんなに伝えているのに変わってくれない」「こんなに私はスタッフのことを考えているのに」という気持ちは、今回のケースのようにスタッフ目線で考えると違った考え方が出来るかもしれません。このように訴える院長先生には「スタッフはどのように理解しているか確認しましたか?」という質問を投げかけるのですが、不思議そうに「確認しなくても、そんなこと理解していて当然です」という言葉が返ってくることが殆どです。
同じ思いを持って同じ方向に一緒に向かうためには、お互いに同じ理解をしていることを確認し合うことが大切だと思います。「もしかしたら、考え方が違うのかもしれない」「相手は自分が思った意味で理解していないのかもしれない」という前提に立ち、会話を重ねてはいかがでしょうか?
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[お知らせ]
2025-10-10【新刊のご案内】『コンサルタントご一行、病院経営を往く-エビデンスに基づく診療報酬の旅-』
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