保険薬局

変貌する人材サービス

調剤薬局の職種別採用チャネル戦略
株式会社ウィーク  シニアコンサルタント 長谷川 周重
前号に引き続き本号では、近年多様化した人材サービスにおいて、調剤薬局ではどのように採用チャネルを活用すべきか解説します。

1.職種別採用チャネルの整理

調剤薬局における採用の多くは薬剤師、その次に調剤薬局事務である。複数店舗を展開する企業であれば、バックオフィスの強化として本社スタッフを募集するケースもあるはずだ。特に近年は、2019年4月2日に発出された「調剤業務のあり方について」(0402通知)を境に調剤薬局事務の採用が活発化している。その上で、各社が薬剤師と調剤薬局事務の採用を積極的に行っているが、職種によって年収帯や求める人物像は異なる。そのため、利用する採用チャネルも変えることが望ましい。さらに本社スタッフは総務、人事、経理、経営企画、営業職等があるが、これらも求める人物像に適した人材紹介会社やネット広告媒体の選定を行う必要がある。前号で示した雇用仲介機能イメージに調剤薬局の職種を重ねると以下のようなイメージになる(図)。

図 調剤薬局における雇用仲介機能イメージ


薬剤師と本社スタッフは、広がった人材サービスにより仲介機能が絡みあってしまうが、現在のところ薬剤師においては、利用者DBやSNS上での採用活動が行き届いているか未知数であること、年収が低く有象無象の求人が多く存在するアグリゲーターサービスやハローワークは相性が悪いため、選択肢から除外して構わない。
 一方、調剤薬局事務は逆で年収帯が300万円前後となるケースが多く、未経験でも応募可ということから自己応募からの流入が期待できる層であり、ハローワークやアグリゲーターサービス、求人広告からの採用がしやすい職種となっている。そのため、無料媒体を中心に採用戦略を立てることが望ましい。

これらを職種別、採用チャネル別に整理した。まず、採用チャネルには、大きく分けて有料版と無料版の2種類がある。従って、採用戦略の第一歩として、採用に予算をかけられるのか検討する必要がある。採用予算の目安として、概ね薬剤師の獲得コストが150万円~200万円/人、調剤薬局事務は10万円/人くらいが相場である。

表 職種別採用チャネル

作成:株式会社ウィーク

職種別採用チャネル戦略のポイントは4つある。
  1.  無料チャネルでできることは、△×以外は原則すべて行う。
  2.  調剤薬局事務は無料チャネルによる採用が中心であるが、急務の場合は有料チャネルを利用する。
  3.  薬剤師の採用は難易度が高いため、有料チャネルで募集し、求人内容で勝負する。
  4.  リファラル採用は全職種で行うことが望ましい。

2.薬剤師の採用は、毎月50分の1のガチャ?!

実は薬剤師の転職市場の正確な規模は不明である。大手M社の決算公告によると、売上は約150億円であるが、この売上の中には派遣売上、医師紹介売上も含まれており薬剤師の紹介に関する売上規模はわからない。その他、大手薬剤師紹介企業においても売上や件数は公開されていないため、詳細は不明である。
私のフェルミ推定による試算では、薬剤師の転職市場は100億から250億円程度と推定している。仮に、市場規模が150億円と仮定した場合、転職者は年間1万人となる。毎月約833人が全国どこかに転職していることになる。大手薬剤師の求人サイトを拝見すると、常時4万から5万件の求人が掲載されている。計算をわかりやすくするため、月間5万件の求人があり、1,000人の薬剤師が転職をしたすると、各社は50分の1の確率で採用を行っている計算となる。この数字を高いとみるか、低いとみるかは賛否両論あると思うが、競い合う数にしては少々多すぎる状況ではなかろうか。

薬剤師の採用は、転職希望者50人がいつ、どこで、どのルートを辿り貴社に応募するのか予測はできない。そのため、できる限り採用チャネルを広く持つことが大切であると考える。人材紹介会社は1社よりも2社、3社と複数のパイプラインを保持することが望ましい。求人広告も複数社と展開した方が良い。そして支払いは可能な限り成果報酬型をお勧めする。

最後に、50分の1に打ち勝つためには採用チャネルの選択もさることながら、他社よりも自社で働くことがいかに魅力であるかを十分にPRすることが大切である。


【2023.9月号 Vol.328 保険薬局情報ダイジェスト】