介護

科学的介護のLIFEが今後、介護施設に及ぼす影響

LIFEの算定状況
株式会社メディックプランニング  代表取締役 三好 貴之

1.LIFEの算定状況

さて、前回の介護報酬改定の大きな目玉となったLIFE(Long-term care Information system ForEvidence=科学的情報システム)ですが、福祉医療機構の「2021年度(令和3年度)介護報酬改定に関するアンケート調査(前編)」によれば、算定可能な科学的介護推進加算の算定率は、算定予定まで含めると、特養70.6%、老健84.4%、介護医療院65.5%と比較的高いことが分かります。また、通所施設では、通所リハ76.4%、通所介護57.9%、認知症対応型通所介護55.5%と、入所施設よりは若干落ちますが、通所リハの算定割合は入所施設並みに高いことが分かります(図1)。


(図1) WAMネット:2021年度(令和3年度)介護報酬改定に関するアンケート調査(前編)

逆に、「今後利用申請する予定はない」と回答している施設は1割から3割あり、その理由には「取り組むことへの負担感」を挙げています。
確かに、科学的介護推進加算Ⅰ:40単位/月、Ⅱ:60単位/月、通所施設:40単位/月だと、「割に合わない」と考える施設もあるでしょう。特に一部の特養や通所介護、グループホームなどの福祉系施設ではまだ記録物をICT化できず「紙カルテ」で運用しているところもあり、さらに介護職員中心の事業所では、職員の年齢層が高く、新たにICT化へ投資したり、職員を教育したりするのは非常に難しいと思います。

2.LIFEは、今後報酬改定の根拠になる

しかし、国の方針では、介護施設のICT化はすでに決定事項であり、さらに推進されることは間違いないと思います。また、今後、厚労省は、今まで介護報酬改定における報酬の増減の根拠としていた「n=数十~数百」の「アンケート調査」と同時に、このLIFEのビッグデータを、介護度やADLの維持改善がみられないような報酬減算の根拠として使う見込みです。よって、通所リハビリの要支援者に対する1年超え利用時の減算のように、「維持目的の割には報酬が高い」ものはどんどん減算される可能性が出てきました。特に老健や通所リハビリは、リハビリ施設であり、ADLを向上させていくアウトカムが今後さらに求められることが予測されるため、大掛かりな業務改善が必要な事業所も出てくるでしょう。

さらに、LIFEは、今後、データ提出項目が追加されることや、介護保険に限らず、医療分野のNDBや介護DB、その他公的DB、人口動態統計(死亡票等)など公的統計との連携も検討されています。最終的には、ある疾患を発症した場合、どのような医療が効果的なのか、さらにどのような介護サービスがADLの維持向上に役立つのかが「一気通貫」でデータベース化できるようになるでしょう。つまり、LIFEは厚労省による重要な一大事業であり、そこに参加しない事業者は「蚊帳の外」に置かれてしまうかも知れません。

また、LIFEを導入している事業者が全体の7割、8割と増加すれば、現在のLIFE関連の加算は包括化され、場合によっては、算定していない事業所に対して減算のペナルティも考えられます。

3.自立支援に必要な項目への加算の加算

前回の改定では、科学的介護に向けてLIFEが導入されたわけですが、LIFEはあくまでも手段であり、目的は「自立支援・重度化予防」にあります。これは、2025年から団塊の世代が75歳に入るのに備えて、元気な人がより自立して要介護状態にならないように、そして、すでに要介護状態の人が重度化しないような取り組みを推進しています。具体的には「リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養」になります。これらを一体的に取り組むことが自立支援・重度化予防につながると強調されました。
 よって、入所、通所施設共にリハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養に関する加算に対して、もう一つ「加算の加算」としてLIFEによる加算が上乗せされたのです。

今後、どのようなリハビリテーション・機能訓練、口腔機能向上、栄養改善の方法が効果的なのかをLIFEのビッグデータが明らかにしていくことでしょう。また、そのデータを事業所にもフィードバックし、より効果的な取り組みを誘導していくことと思います。

4. LIFEのデータによって強みが「自称」から客観的評価へ

これから事業者は、自分の事業所の価値観だけではなく、LIFEデータを踏まえて、どのような取り組みを強化すべきかを考えながら業務改善を行うことが必要となります。また、LIFEデータのフィードバックは、事業所単位でも出るので、自事業所の強み、弱みも全国平均との比較で明らかになります。当然、強みのない事業所は、徐々に利用者確保が難しくなるでしょうし、逆に、強みの多い事業所は、「自称の強み」ではなく、客観的な評価としての強みとして外部にアピールすることができるようになれば、収益も上がっていくでしょう。


【2023. 1. 15 Vol.560 医業情報ダイジェスト】