介護

介護老人保健施設の方向性は 「リハビリ型」か「医療型」

在宅復帰率を高めるにはリハ職の充実とADL支援
株式会社メディックプランニング  代表取締役 三好 貴之
介護老人保健施設(以下、老健)は、もともと老人保健法にて「医療機関と在宅との中間施設」としてスタートしました。しかし、その理念とは徐々にかけ離れ「特養化」してしまい、医療機関の受け皿になっているものの「中間施設としての機能」が発揮されていませんでした。そこで、2012年度の介護報酬改定にて在宅復帰率やベッド回転率などの指標をもとに「強化型」「加算型」「通常型」の3分類に分けられ、同じ介護度でもサービス費は「強化型」が一番高く、「通常型」が一番低くなりました。そして、2018年度介護報酬改定では、さらに「超強化型」「強化型」「加算型」「通常型」「その他型」の5分類化され、さらに報酬に差がつきました。現在では、在宅復帰率、ベッド回転率だけではなく、図のように10項目90点満点とその他の要件によって5分類化が継続しています。

第199 回社会保障審議会介護給付費分科会資料 令和3 年1 月18 日(月)算定要件等 ※下線部が見直し箇所


▼超強化型では、稼働率が低下する

2012年に老健の3分類化がスタートし在宅復帰率を高める取り組みが求められました。しかし、老健の入所者数は100床規模の老健でも月に5、6件のところも多く、入院や死亡退所に加え、在宅復帰の取り組みを行うと、入所者よりも退所者が増加し、その結果、病床稼働率と収益が低下し、在宅復帰への取り組みを諦めた老健も多くありました。
しかし、2018年度の介護報酬改定では、老健の機能は、在宅復帰だけではなく在宅療養支援機能もあるとして、在宅復帰率、ベッド回転率以外の指数も追加されたため、在宅復帰率が50%以上でなくても強化型までは十分に算定できるようになりました。

▼在宅復帰率を高めるにはリハ職の充実とADL支援

在宅復帰率を高めるには、まずはリハ職の充実が必要です。筆者の経験では、十分なリハビリやA DL支援を看護職、介護職と行うには入所者20人に対してリハ職1人の「20対1」は必要でしょう。つまり、100床の老健であれば、入所だけでリハ職が5人は必要になります。しかし、「そんなに採用しても、リハビリの加算では赤字になる」とある施設長に言われたことがあります。もちろん、リハビリに関する加算だけでは、人件費くらいしか捻出できないと思います。ただ、リハ職の配置によって在宅復帰が進み、超強化型や強化型が算定できれば利用者単価が上がりますし、何より「あの老健はリハビリが充実している」と在宅復帰目的の入所者を医療機関やケアマネから紹介されるのではないでしょうか。もちろん、一度退所した利用者に「リハビリ目的」で再入所を希望される機会も増えるでしょう。これにより、新規入所者も増加し、利用者単価も上がれば、おのずと収益は増加します。よって、近眼的な加算収益だけで判断するのではなく、老健の全体最適の視点でリハ職の増員を検討しましょう。

▼看取り機能、重度対応で「医療型老健」へ

一方、ここ数回の介護報酬改定を見てみると最も強化されているのが「看取り」です。老健は介護施設のなかで唯一、常勤医師が必要な施設です。また、介護職だけではなく看護師やリハ職の配置も必要なことから人員基準上も「医療と介護の中間施設」であり、在宅医療の一部を担う施設でもあります。その証拠に、2021年度介護報酬改定では、「ターミナルケア加算」や「所定疾患療養費」の算定日数が増加したり、「かかりつけ医連携調剤調整加算」が新設されました。おそらく、今後の介護報酬改定でも医療に関わる項目は強化されていくことが予測されます。
つまり、リハ職の採用が難しく「リハビリ型老健」が難しい場合は、看護師を増員し、看取りや重度対応を行う「医療型老健」の方向性もあるということです。また、これから認知症の入所者はさらに増加していくことが予測されるため、認知症対応の機能強化は必須となるでしょう。

▼老健の3極化

今後、老健は多くのリハ職によって在宅復帰を進める「リハビリ型老健」か、看取りや認知症に対応する「医療型老健」、そして、どちらにも属さない「その他型」に3極化していくと思います。もちろん、「その他型」は、基本サービス費は低く、取れる加算もないため、運営は非常に難しいでしょう。よって、「リハビリ型老健」か「医療型老健」のどちらを選択するか、地域のニーズや競合分析によって舵を切る必要があると思います。


【2023. 6. 15 Vol.570 医業情報ダイジェスト】