組織・人材育成

業績賞与と病院業績、部門業績、個人業績

賞与支給について考える
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
人事・賃金制度の構築をする際、それまで人事評価をしてこなかった病院において、「今後導入して年に2回も人事評価を継続して行う自信がないので、人事評価は年1回行うこととし、人事評価の結果を賞与に反映させることはしない」という意見が出ることがあります。年に2回人事評価ができないから賞与査定はしないというのは、短絡的な結論のように思われます。そこで、今回は賞与支給について考えます。

賞与の性格

賞与という臨時給与は、基本的には、支給対象期間の勤務に対する賃金の後払いと言えますが、その性格は、生活保障的意味、功労報償的意味、将来の期待的意味(労働意欲向上)があると考えます。このことから、基本賞与と業績賞与に区分して賞与を支給することが、あるべき姿でしょう。
また、最近、賃金制度の整備を支援した病院では、賃金規程の中に、次のような条文を追加しました。「賞与支給時点において、賞与支給月の翌々月の末日までに退職予定の者については、賞与額を20%減額する」。退職をすることで将来の期待はできなくなるわけですから、その分、賞与を減額するという趣旨です。なお、20%の減額は、判例上示されている上限額です。
基本賞与は、生活一時金として基本的には保証するとして、業績賞与部分については、何らかの業績指標に基づいて賞与原資を決めるのが一般的でしょう。業績指標は、医業利益、経常利益、付加価値額、医業収益のいずれかが使われます。例えば、夏の賞与において、前年の10月~3月までの医業利益率が3%以上であれば、業績賞与支給月数は、何ケ月分などと、あらかじめテーブルを職員に示しておき、職員全員で、病院の業績が上がるよう努力をすることは、病院の経営に割と無頓着な職員の意識を少し変えることになるのではないでしょうか。

しかし、先述の指標の中で、医業利益や医業収益は、職員にも分かりやすいものですが、職員の活動を引き出す指標としてはやや漠然としています。もっと職員にとって身近な業績指標にしたほうが、職員の意欲を引き出せるのではないでしょうか。例えば、入院患者数や外来患者数の目標値、コスト削減目標など身近な指標を組み合わせて、業績賞与支給月数のテーブルを示してはどうかと考えます。そして、各数値の達成状況を、定期的に職員に示し、目標達成に向かわせていく工夫も大事です。入院患者数がもう少し増えれば賞与が上がると分かれば、積極的に患者さんを受け入れようという気持ちになることが期待できます。

病院業績⇒部門業績⇒個人業績

病院業績を向上させるためには、各部門の業績向上、さらには、その業績向上に向けて、職員が目標を立て取り組んでいくという流れを作ることが大事です。すなわち、基本賞与については、全員一律の支給月数でよいのでしょうが、業績賞与については、部門業績や個人業績を反映させ、個人配分の考えを入れる必要があるものと考えます。
 病院が定めた業績指標がよくなれば、業績賞与全体が膨らみます。しかし、部門や個人でその貢献度に違いがあるのではないでしょうか。すなわち、病院全体の業績指標がよくなれば、全員一律に高い業績賞与が受け取れるということでは、公正な仕組みとは言えません。また、自分が頑張らなくても、他の人が頑張ってくれれば、賞与が上がるということでは、リンゲルマン効果(集団の中での手抜き)が働き、業績指標の達成の可能性も弱まるように思います。

そこで、部門業績が大幅に達成すれば、S評価で係数1.1を業績賞与の支給月数に掛ける、人事評価でS評価を取れば、さらに係数1.1を掛ける、逆に、部門業績が達成できなければ、C評価で係数0.95を掛け、人事評価でも係数0.95を掛けるなどして、個人ごとに賞与支給額を変えるべきでしょう。
また、この際、月額賃金の調整機能を持たせる工夫も考えられます。例えば、夜勤勤務の多い看護師でも、少ない看護師でも夜勤手当の額しか毎月の賃金が変わらないのでは、あまり夜勤をやりたいとは思わないでしょう。それを調整する機能として、月平均何回以上夜勤をしてくれた看護師には、係数1.1を掛けるといった機能を加えることも考えられます。なお、これらの係数を掛けることで賞与原資を上回った場合には、一律調整係数を掛けて、原資内に納めるようにすれば、経営的には問題はありません。

病院業績を達成する活動を後押しする上では、目標管理を中心とした人事評価を半年単位で行うことを推奨しますが、企業と比べて、病院は経営的変動が小さいということで、1年単位の活動とし、その結果は、翌年の夏の賞与にのみ反映させるといった変則的な形も考えられなくはありません。が入ります。


 【2022. 5. 15 Vol.544 医業情報ダイジェスト】