組織・人材育成

スタッフのご家庭の課題との向き合い方

誰かが急遽長い間お休みをしたらどうする?
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
11月に入り、紅葉シーズン突入ですね。コロナ禍では出来なかった余暇の過ごし方をされている方もおられるのではないでしょうか。
今回はスタッフのご家族の課題で見直さざるを得なくなった業務内容の振り返り事例から、より良い組織の在り方を考えましょう。
※ 実際のケースを個人・組織が特定されないよう一部加工しております。

ケース:

地方都市の住宅街にあるクリニックのお話です。スタッフ数は5名を僅かに超える程度である、小さな規模のクリニックです。
ようやくスタッフが定着してきたところで、ある若手スタッフAさん(受付・事務担当)のお父様が体調を崩し余命宣告を受け、Aさんがお父様のケアをしなければならない状態になりました。日中は可能な限り医療保険・介護保険といった社会的資源の活用も検討しましたが、金銭的な事情や「お父さんを自分で介護したい」というAさんの強い希望と、何よりもAさんにとって急な出来事で受け止めきれず動揺していることから、Aさんの勤務変更の要望(勤務回数・勤務時間を減らす)を院長先生は受け入れることにしました。

若手ではありますがAさんは受付を一手に任されていました。受付のマニュアルはありましたが、それ以外にも実はAさんが独自に行っていた業務が多々あることが判明!他のスタッフは患者さんの受付カードの授受やカルテ出し、診察後の会計については何となく理解していましたが、患者ごとに異なる事情を考慮した上での予約の入れ方など、細かな業務に四苦八苦する状況が発生しました。それでもAさんの勤務変更直後はAさんが短時間でも勤務していたので、適宜Aさんがスタッフに口頭で伝えるなどフォローすることで何とか通常の診療を行うことが出来ました。

ところが、しばらくするとAさんは徐々に勤務中に集中できていない様子が見られるように。
Aさんが勤務時には必ず短時間でも話を聞くようにしていた院長先生曰く「夜間もAさんがお父さんに付き添っているようで、あまり眠れていないようです」とのこと。院長先生としてはAさんの状況を鑑み、出来る限りAさんにとって仕事の負担を減らせるようにと思っていましたが、Aさんが患者さんに対する雑な対応や、ミスが目立つようになったことに頭を抱えていました。
「そうは言ってもこのクリニックとして目指す診療は続けないといけない」
院長先生はスタッフミーティングでスタッフ全員に対し、Aさん個別の事情について議題にするのではなく「今後も誰かが急に休まざるを得ない状況は起こり得る。そうなった時に対応できるよう最低限スタッフ間で共有すべき業務内容は何か考えよう」と声を掛けました。すると院長先生が想像する以上にスタッフも課題意識を持っていたという反応が!自分以外の業務に対して、誰がどのように把握しているのか、その把握している内容が誤っていないかどうか整理するという作業を、スタッフが自発的に行うことになりました。

院長先生「いつ誰がどうなるか何て誰も分かりません。今回のスタッフの自発的な動きは『誰かに何かあった時に、他のスタッフだけではなく当事者の安心にも繋がる』という共通認識を持てたことが良かったのだと思います。Aさんにもこのスタッフ間の話し合いを伝えたところ、安心した様子でまとまったお休みをとってもらうことになりました。今回の件でより一層スタッフの結束力が高まったように思います。Aさんにはご家族との時間を大切に過ごしてもらいたいと、クリニックのスタッフ一同願っています」

このケース、どういう感想を持ちましたか?
クリニックは少数精鋭で運営されているところが多く、このケースのように属人的(ある業務の進め方や進捗状況などを特定の担当者しか把握していない状況)になりがちです。従って、突如スタッフの誰かが休まざるを得なくなった場合に業務が煩雑になってしまうことは十分に想定される事象であるはずです。一方で、想定できることでありながら事前準備が行えているクリニックは多いとは言えないのではないでしょうか。

このケースを参考に、ぜひ皆さまのクリニックでも「誰かが急遽長い間お休みをしたらどうする?」というテーマで話し合ってみてはいかがでしょうか。マニュアルの見直しや書類や材料等の置き場所の見直しなど、業務改善に繋がるお話も出てくると思いますよ!


【2022. 12. 1 Vol.557 医業情報ダイジェスト】