組織・人材育成

結果ではなく関係性に目を向けることを思い出した院長先生のお話

個人がより良く成長する組織の在り方を考える
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
 新しい年がはじまりました!皆さまにとって2023年はどんな年にしたいですか?
今回は成長の遅いスタッフに悩む院長先生と、成長が遅い自覚がありながらも院長先生の接し方に嫌悪感を覚えるスタッフの事例から、個人がより良く成長する組織の在り方を考えましょう。

ケース:

「新人女医A先生がなかなか一人前にならなくて…」と語るのは住宅街にある歯科クリニックの院長先生。院長先生は「もう2年目に入るのだからもう少しできてくれないと正直困るんですよ。歯科医師なので給料も安くはないですし…最近A先生に強く当たってしまう自分にも自己嫌悪で…」と、うなだれています。

 A先生は結婚・出産を経たために歯科医師としてブランクがあるものの、明るい人柄と歯科に対する熱い姿勢に院長先生は心を打たれ、このクリニックの一員として採用しました。A先生はお子さまが小さいために勤務体制は非常勤。少しずつ仕事に慣れてもらおうと、院長先生は歯科医師として取得してほしい技術をまとめ、月ごとに目標を決めて取り組んでもらうことになりました。

 A先生は何に対しても意欲的!ブランクを埋めようと限られた時間で練習も一生懸命行います。ただ、院長先生の期待するレベルにはなかなかならない模様。
 「A先生に対して『あなたの給与はこれで売上はこれです』と貢献していないことを数字で示しました。自覚してもらおうと思って。頑張りが足りないというか、頑張るやり方が違うと思うんですよ」と院長先生。
 実はA先生からは「最近、院長先生からの当たりが強く、他のスタッフと比べて冷遇されている感じを受けて非常に寂しいです」、そして他のスタッフからは「A先生ができていないと院長先生は言うのですが、私たちはそうは感じません。何より、A 先生への冷たい対応を見ていて悲しい。A 先生は一生懸命なのにフォローしていない」という相談を筆者は受けていました。

上村「院長先生、以前お伝えした『ダニエル・キムの成功循環モデル』を覚えていますか?私は今の院長先生は結果に執着し過ぎて、関係性が悪くなっているというバッドサイクルに陥っているように感じます。院長先生が望む結果を得るために必要な、関係性を高める関りができています
か?得られない結果に苛立ち、相手を責めるような対応をすることで、本当に望む結果が得られるでしょうか?」

■ ダニエル・キム(MIT組織学習センター共同創始者)の成功循環モデル



 院長先生は少し考え込み、じっくり時間をかけて顔を上げました。

院長先生「A先生に対して『頑張ってほしい』といいながら、心の奥では成長しないだろうと諦めていた気持ちと、それでも成長してもらわないと売上面が大変だという苛立ちが同居していて、それが態度に出ていましたね。結果だけを相手に押し付けても良くないことは教えてもらっていたのに…実際に自分の行動に重なって苦しい思いです。でもそれ以上にA先生を苦しめていたのかな。見ていたスタッフもそうかもしれない…反省です」

それから院長先生と共に、A先生に対する院長先生の言動について紙に記しながら今の関係性を振り返り、どのような関係性を築くことがより良い結果に繋がるかじっくり話し合いました。

その後、A先生から「今までは院長先生に相談しても突き放されていたのですが、最近は背中を押してくれる言い方に変わりました!」とご連絡がありました。少しずつですが院長先生の変化がスタッフの皆さまに感じられるようになり、なんとA先生の診療時間が短縮されたという嬉しいニュースも聞くことができたのでした!

このケース、どういう感想を持ちましたか?
ダニエル・キムのモデルなど、組織開発の図解や概念の解説本が世の中にはたくさんありますよね。学んだ時には「当たり前だ」「大切だ」と思うのですが、現実に起こった組織の課題に対して「現実は違うよね」「色々複雑だからね」と理由を付けて学びを遠ざける人も少なくないのではないでしょうか。特にこのケースのように困難な事象が起こっている時ほど視野は狭くなり、自らを正しく振り返ることが難しくなります。学んだことを自分事にして行動変容を促す方法の1つとして、敢えて今考えていることや事象を紙に書き起こし、視覚化してみると見方が変わって客観化しやすくなります。ゆっくりとひと息つける時間がありましたら、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?


【2023. 1. 1 Vol.559 医業情報ダイジェスト】