組織・人材育成

流されないで話し合える組織はより良く成長しやすい

誰かの意見に対して何でも同意しがちなスタッフの事例
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
この冬も全国的に感染拡大が継続しており、医療従事者の皆さまにおかれましては変わらぬ緊張感の中でお過ごしのこととお察し致します。
今回は自分の意見を出してほしいと訴える院長先生と、誰かの意見に対して何でも同意しがちなスタッフの事例から、より良く成長する組織づくりを考えましょう。

ケース:

「自分の意見を言い合える組織にしたいんです」と語る院長先生からのご要望で、あるクリニックでワークを行うことになりました。目的は「自分たちの話し合いの傾向を知り、改善点を探ること」です。

このクリニックは院長先生が率先して業務改善を行っていました。ハロウィンやクリスマスなど季節ごとのイベントから受診予約のルールなど、思い付いたらすぐにミーティングで議題に出し、スタッフへ承認を得て実行することを繰り返していました。これまでスタッフから改善に関する意見が出てきたことは殆ど無いと院長先生は話します。

院長先生「自分たちの業務なのに興味が無いのでしょうか。反対意見でも良いので、承認以外の発言が増えてくると良いと思っています」

ワークでは必ずしも正解は無いものについて「グループで意見をひとつにまとめる」という課題に挑戦いただきました。ルールは①多数決無し、②意見を丸め込んだり自分の意見を諦めたりしない、③話をし過ぎている人や話をしない人がいないように気を付ける、という3点のみ。制限時間内に答えを出す必要があるため、活発で効率的な議論がワーク成功の鍵となります。

話し合いは院長先生を中心に行われていきます。最初こそ一人ひとりのワークに対する意見が出てきたものの、いざ全員で決めていきましょうという時には、決め方から結論に至るまで反対意見が出るわけでもなく、反対しているような様子があるわけでもなく時間は過ぎていきました。筆者の経験上、このワークの制限時間は結論に至るに足りないと訴えられることが多かったのですが、このクリニックでは制限時間よりもかなり早く結論が出たのでした。

ワーク終了後、振り返りを行いました。そこでは、
  • 自分の意見を出すことが出来たかどうか
  •  他人の意見に耳を傾けることが出来たかどうか
  • 結論に納得することが出来たか
  •  更により良い議論となるためにはどうすれば良かったのか
という項目に加えて、「他組織では制限時間が短いと訴えることが多いが今回短く結論が出たという事実をどう思うか」について具体的に振り返りの質問を行いました。

するとスタッフの中でも一番所属年数の長い受付のAさんから「安易な同意をしていると思っていなかったのですが、問いについて自分事として考えていなかったから議論が深まらなかったのかも…。何度も上村さんから『本当にこの結論で良いのですね?』と言われていましたが、制限時間終了時になってはじめて『なぜこのワークをやっているのか』を考え、『これで本当に良かったのかな』と思いました」との発言が。Aさんにとって自分の意見を言うことは、その意見が同意であっても相手の言い分に対して文句があるように思われてしまうのではないか、医療資格を有していない自分が意見するのは生意気に映るのではないかと思われていたようです。Aさんの意見を皮切りに、他のスタッフからも「自分の発言が業務に影響を与えるとは思っていなかったし、自分の発言でミーティングの時間が長くなってしまうのは申し訳なくて…」という発言も。このような発言が出てくると思っていなかった院長先生はびっくり!

ワークで自分たちの話し合いの傾向や課題点を見つけ出すことが出来たこのクリニックでは、少しずつミーティングの中で「出てきた改善案についてわざと反対意見を考えてみる」ということを挑戦し始めています。

このケース、どのような感想を持ちましたか?
クリニックという少人数の組織では院長先生の意見が尊重されがちで、スタッフの意見は二の次になってしまうことも多いと思います。そのほうが院長先生にとって一見スムーズに仕事が進むように見えますし、スタッフとしても考えずにただ従うだけなので楽に感じられるかもしれません。一方で、院長先生が見えないところでスタッフの不平不満が蓄積していくことも少なくありません。

中長期的に院長先生もスタッフも幸せに業務を遂行できる環境を整えるためには、業務に対して多方面から意見を言い合える関係性が重要です。このケースを踏まえて、まずは自分たちの話し合いの傾向を振り返る(特定の人の意見が反映されがちなど)とともに、今後組織をより良くしていくためにあえて反対の意見を考えてみるといったディベートの視点を入れるなど、話し合いの改善点を検討してみてはいかがでしょうか?色々な意見が出たとしてもその個人の意見は必ず尊重されることを前提とした上で!ぜひ改善に取り組んでみて下さいね。


【2023. 2. 1 Vol.561 医業情報ダイジェスト】