組織・人材育成

定昇(定期昇給)とベア(ベースアップ)

ベアの実際と定昇とベアの違い
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
賃金制度の見直しを進めている病院から、突然、「ベアを何%ぐらい行いたい」といった連絡をいただくことがあります。賃金表をすべて設計し作り上げ、これで導入という時にベアの話が飛び込み、ベアの率も不明確では、簡単には賃金表を改定することはできません。
特に、病院においては、職種別賃金表で多くの賃金表を作り、その他に、年齢給表や業績給表も組み合わせた体系とすることもあり、一口にベアと言われても、賃金表をすべて改定せねばならず、短時間では難しいと思われます。また、最近は、病院ではベアをすることもないようであり、定昇とベアの違いをご存知ない若い担当者も少なくないように感じます。そこで今回は、定昇とベアの違いを確認し、実際のベアの方法について考えます。

ベアの実際と定昇とベアの違い

今年の春闘がスタートし、12月の消費者物価指数が41年ぶりに4%上昇する中、連合はベースアップ相当分と定期昇給分を合わせて5%という高い賃上げを求めています。このような背景の中、急遽ベアをしたいと考えている病院もあるのではないかと推察します。しかし、病院界のベアの実態はどうかと言えば、今までベアなどしたことがないところが多く見受けられます。30年前、筆者が、病院の人事課長だった時には、毎年、労働組合と交渉して、定昇とベアを実施していましたが、現在では、経営が厳しくベアなど考えられないという病院が多いのではないでしょうか。ちなみに、コロナ禍ではありますが、医療経営情報研究所が2020年と2021年に行った調査では、ベアを実施したのは約17%でした。

ここで、基本的な話として定昇とベアの違いを確認しておきましょう。賃金表(ベースと称する)というのは、基本的には、社会情勢の変化に応じて書き換えていかなければならないものです。物価が4%も増加したのでは、賃金表を引き上げなければ、実質賃金が下がってしまうわけですから、当然のことではあります。すなわち、ベースと呼ばれる賃金表をアップすることをベースアップ、略してベアと言います。したがって、賃金表がなければベアという概念はありません。

一方、職員は、勤続年数が長くなり、年齢も高くなり、能力も高まって成長していきます。これらに基づいて、職員の賃金を賃金表の中で上方へ移動させなければなりません。これを昇給と言い、職員の成長等を受け止めるものです。そして、厳密に言うと、昇給は全職員に毎年適用される定期昇給とそれ以外の昇給に区分されますが、簡単に言えば、定期昇給は賃金表に従って行われるものということになります。例えば、20歳の基本給が20万円で、21歳で20万4千円になる賃金表であれば翌年定期昇給で2%上がるわけですが、物価上昇に合わせて3%ベアを行うとすれば、この率を掛けると、20歳基本給20万6千円、21歳は21万120円となります。すなわち、20歳20万円で就職した人は、翌年、定昇とベアで1万120円(5.06%アップ)賃金が上がるわけです。

定額配分と定率配分

このように3%ベアをすると決めて、賃金表に一律3%掛ければ終了というわけにもいきません。例えば、賃金表を作成する際に、若い人の賃金水準を引き上げ、上位者との格差を縮めるという賃金戦略を立てて、賃金表を作ったとします。それなのに一律3%掛けたのでは、上位者の賃金の高い人の昇給額は大きくなり、当初の目論見から外れることになります。したがって、最終的には、賃金表を戦略を考えて作り直さなければならないわけですが、改定する賃金表の数が多いことを考えれば、簡単にはできません。そこで、定額配分と定率配分をミックスして、改定を行うことが簡便です。定額配分とは、すべての賃金に同額を加えるものであり、定率配分とは、すべての賃金に同率を掛けるものです。前者は、定期昇給額は変化がなく、賃金カーブを寝かせることになり、後者は定期昇給額も上がり賃金カーブを立たせることになります。この両者を組み合わせ配分を変えるだけでも、ある程度の賃金戦略を織り込むことはできるでしょう。

ちなみに、半年かけて昇給額等を決め、若い年代の賃金を上げるという戦略を立て、新賃金制度を導入しようとしている時に、後から「ベアだけで5%以上上げたい」というご依頼があり、次のようなご提案をしたことがあります。すなわち、定額で全員同じように賃金がドーンと上がることを公表したほうが分かりやすくインパクトが大きいことから全額定額方式を提案しました。但し、これは改定の時間がなかったこと、当初の戦略と大きくずれないことからの提案であり、5%も上げるのであれば、きちんと戦略を考え、賃金表を再設計すべきであったと反省しています。病院は賃金表が多いことからすれば、できるだけ早い時期にベアの方針を決め取り組む必要があるのです。ちなみに、現行の賃金カーブが適切でベア率も大きくなければ、5対5程度の割合で、定率と定額をミックスすればよいでしょう。


【2023. 2. 15 Vol.562 医業情報ダイジェスト】

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