組織・人材育成

消えたデータ~リスクマネジメントと組織づくり

組織として仕事を継続していくためのリスクマネジメントについて考える
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
22年度も残すところあと僅かになりましたね。年初に決められた今年の目標の進捗具合はいかがですか?まだまだ続いているコロナ禍など、思うように過ごすことが難しかった組織も少なくなかったのではないかと思います。緊急事態の対応は組織の脆さを露呈することもありますね。
今回はそんなコロナ禍で組織の雰囲気が悪化したことで起こった事例から、組織として仕事を継続していくためのリスクマネジメントについて考えていきましょう。

ケース:

「本当に困ってしまいました…」と地方都市にあるクリニックの院長先生は頭を悩ませていました。
クリニックに長年勤めていた事務担当のAさんと院長先生に行き違いが起こり、Aさんは急遽退職することに。コロナ禍にあってプライベートにトラブルを抱えることになったAさんは精神的に追い込まれてしまい、クリニックで不適切な言動が増えてしまったことで注意をした院長先生と口論になり、Aさんは退職を選択されたのでした。退職までの約1か月間、表向きにはそれまでと変わらずに過ごしているように見えたAさんでしたが、院長先生とはひと言も会話をせずに退職の日を迎えました。

翌日、いつもの通り誰よりも早く通勤した院長先生はあることに気が付きました。長年事務を担当していたAさんは、通院していた患者さんの情報(ある患者さんは〇曜日の夜の時間帯に予約を入れることが多い、ある患者さんは△△の話をするとコミュニケーションが取りやすい等)や購入物品の情報、事務マニュアルのデータ等をパソコンで管理していました。そのデータがすべて無くなっていたのです。急ぎAさんに連絡をするも繋がらない状態。あまりのショックに院長先生は筆者に連絡を入れたのた。

上村「データのバックアップは取られていなかったのですか?」

院長先生「データはあり続けると盲目的に思っていたので、バックアップを取るということ自体念頭にありませんでした。患者情報は個人情報に当たりますので、データの閲覧にパスワードをかけ、ネットワークに接続していない端末で管理をしていましたが全てAさんに任せていたので…」

上村「残念ながら、リスクマネジメントの視点が不足していましたね。近年ではBCP(事業継続計画)の概念が医療機関にも浸透し始めていますが、クリニックにおいてはまだリスクに対する対策を十分に検討している組織は多く無いと感じています。この経験を踏まえて、リスクマネジメントと蓄積しているデータの管理方法について見直しましょう!」

その日に行われたミーティングでスタッフから「実はAさんがすべて管理していたので言えなかったのですが、こう改善したらもっと良くなると思っていました…」という声が!その後、改善されたことでより良い患者情報の共有データが作られるようになり、データの管理方法については新たなルールが運用されることになったのでした。

このケース、どのような感想を持ちましたか(ちなみにデータは復旧できなかったそうです)?
組織運営では思いもよらない出来事が起こることがありますね。クリニックのように少数精鋭で運営している組織では、ある仕事が特定の個人しか行うことができないという事象が結果として起こることもあります。意図があるにせよ不注意が招いたことにせよ、このような事象が起こると機能不全になってしまう状態では大きなリスクを抱えていると言わざるを得ません。つまり「この人だから大丈夫」や「うちの組織は小さいからそんなに問題にならないよ」ということではなく、リーダーを含めて誰もが起こす可能性があること、そしてリスクを抱えることは大なり小なり患者さんにもマイナスの影響を与える可能性が高いことを踏まえて、トラブルを回避するための対策を練るのがリスクマネジメントです。

コロナ禍で「非常事態での緊急対応はただ目の前のことに追われている状態のため、中長期的な組織の成長に繋がりにくい」ことは体感されたと思います。日頃起こり得る、潜んでいるリスクに何があるのか、検討されたことはありますか?治療などの医療行為だけではなく、クリニック経営を行うに当たり必要となる事務作業や物品管理など、いろいろな視点から必要なリスクマネジメントを検討する時間を取られてはいかがでしょうか。できれば一人ではなく多数の目で検討することで、リスクマネジメントの効果がより発揮されるはずですよ!


【2023. 2. 15 Vol.562 医業情報ダイジェスト】