組織・人材育成

「普通でないこと」は当たり前!組織の個別性に目を向けて進化を目指そう

組織やスタッフの見方・捉え方について考える
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
春の気配というと心弾むフレーズですが、私にとって1年間で最も外出が億劫になる花粉の季節となっています。2024 年度診療報酬改定に向けた話題も徐々に中医協総会に登場していますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今回はどんな話題も「結論ありき」でお話をする院長先生のお話から、より良く進化するための組織やスタッフの見方・捉え方について考えていきましょう。

ケース:

西日本の住宅街にある有床クリニックのお話です。このクリニックの若き院長先生から「組織をより良くしたいので第三者の意見が聞きたい」という要望があり、ご訪問しました。
よくよく院長先生のお話を伺うと、このクリニックで看護師を束ねるリーダーである看護師長について「マネジメントが出来ていない」とのこと。

院長先生「非常に心優しい師長さんに見えるのだが好き嫌いが激しいようで、スタッフにより評価が分かれてしまう。また、日々忙しいのは理解するが口を開けば『看護師が足りない』とばかり言い、業務改善や効率化という『今の資源をどう有効活用すれば良いか』という考えに及ばない。そう指摘するとすぐに感情的になるし…私だけではなく他の役職者も師長さんのマネジメントに対して同じような評価だと思いますよ」

そこで師長さんにヒアリングを行うと、院長先生のお話とは違った視点のお話が出てきました。

師長「クリニックに相談する相手がいません。院長先生は話を聞いてくれるがそれだけ。前任の師長が突然退職したことで師長になったため引継ぎはほぼゼロという状態なのですが『師長さんの下で働いていたのだから出来て当然』と出来ていないことを『怠慢である』とばかりに責められます。師長の仕事だからと丸投げされても、出来ないものは出来ません。相談する相手どころか敵ですよね。こんな状態では怒りたくなくとも声を荒げてしまいます」

この師長さんヒアリングの後、院長先生が手招きをします。

院長先生「どうでしたか?他のクリニックもこんな感じなのですか?普通はもっと看護師長さんってしっかりしていますよね?絶対おかしいはずなのに、本人が自覚していないなのですよ」

矢継ぎ早の発言に対し、素直に筆者はこう答えます。

筆者「全てのクリニックを把握しているわけではないので統計的なことは言えませんが、多かれ少なかれどのクリニックも課題を抱えています。役割を与えれば必ず個人が全うするわけではなく、周りがフォローすることで成り立っている組織も多くあります。師長のマネジメントに対して課題があることは分かりましたが、他の組織と違って特に強烈な違和感があるいうことではありませんでした」

この筆者の答えに対し、院長先生は何とも言えない表情になり「絶対うちはおかしいのに…」と呟いたのでした。
実は…この院長先生の今の師長さんに対する評価は、前職の師長さんに対しても同じだったことに気が付くのですが…それはこの後のお話なのでした。

このケース、どのような感想を持ちましたか?
院長先生は最初「うちのクリニックは特殊な組織だ」「任命したのは自分自身だが想定外に師長が特別ダメな人だった」と信じて疑っていませんでした。つまり、特殊な組織・人であるから「経営者として自分ではどうにかできなくても仕方がない=師長が悪い」と改善できないことに対する(厳しい言い方ですが)言い訳を自分自身に言い聞かせている心理とも言える状態になっていたようです。こうなってしまうと、組織を進化する具体的な改善に繋がり難くなってしまいます。

私の僅かな経験ではありますが、マネジメント能力に長けている人にはたくさんお会いします。しかし、100%改善点が無い管理職に出会ったことはありません。それぞれの組織が個性的で、それぞれの個性に合わせて助け合える環境を整えたり適材適所の人材活用を行ったりすることで管理職がマネジメントの工夫をされています。このことは頭では理解されている院長先生も多いのですが、いざご自身の組織の話となると一般論との比較から「自分の組織の異常さ」を強調する方も少なくないと実感しています。

悪いか悪くないか、普通かそうでないのか、という判断ではなく、組織の抱える課題とその理由に意識を向けることで、改善の方向性は見えてくるものです。このケースの場合には、組織として、(看護師長だけではなく)管理職者に必要な要素や行うべき仕事が整理されていないこと、その理由として、それらが問題だと認識されていない文化について改善していくことになりました。

課題には直視したくないような院長先生に対する内容が含まれる可能性は十分にあります(むしろ避けて通れないものだと思います)。組織がより良くなるための本質的な改善を目指すのであれば、院長先生自身が課題である可能性を覚悟の上で、個別の課題に意識を向けられるかがカギになると感じています。


【2023. 3. 15 Vol.564 医業情報ダイジェスト】