組織・人材育成

令和5年の人事院勧告から給与と働き方を考える

令和5年給与勧告のポイント
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
人事院は8月7日に「2023年度の一般職の国家公務員の給与の改定」と「一般職の国家公務員の勤務時間、休暇等に関する法律の改正」について、国会と内閣に勧告をしました。昨年の人事院勧告でも初任給の改善が行われましたが、今回は、大卒、高卒ともに1万円を超える大幅増であり、危機的な状況にある公務人材の確保が急務であることが分かります。また、このような状況の中、フレックスタイム制の活用によって、土・日以外の平日に勤務しない日を1日設けられるよう勧告したことは、今後の働き方を考える上で注目すべきことと言えましょう。そこで今回は、令和5年の人事院勧告を確認し、公務員同様、人材確保に危機感を感じている病院職員の確保の参考にできればと考えます。

令和5年給与勧告のポイント

令和5年の給与勧告は、過去5年の平均と比べ、約10倍のベースアップをするということです。主なポイントを確認すると、まず月例給は、民間給与との格差(3,869円)を解消するため、俸給表が引上げ改定されます。その内訳は、俸給3,431円、俸給の改定により諸手当の額にはね返る分438円となっています。改定は、行政職俸給表(一)において、初任給を次のとおり引上げるとのことです。
「一般職試験(高卒者)7.8%(12 ,000円)、一般職試験(大卒程度)5.9%(11,000円)、総合職試験(大卒程度)5.8%(11,000円)」。また、改定は、初任給をはじめ若年層に重点を置き、そこから改定率を逓減させる形で引上げ改定がされます。すなわち、平均改定率は、全体で1.1%ですが、1級が5.2%、2級2.8%、3級1.0%、4級0.4%、5級以上0.3%となっています。なお、指定職俸給表は、行政職俸給表(一)10級の平均改定率(0.3%)と同程度の引上げ改定であり、その他の俸給表は、行政職俸給表(一)との均衡を基本に改定されます。現在、筆者が支援している職員数2,000人程の病院でも、改定額はこれより若干低いですが、近い形での賃金改定を計画しています。若年層の人材を確保するには必然の考え方と言えましょう。

一方、賞与は民間の支給状況に見合うように現在の年間4.4ケ月分を4.5ケ月分に引き上げ、この引上げ分は期末手当及び勤勉手当に0.05ケ月分ずつ均等に配分されます。なお、手当についてですが、医師に対する初任給調整手当について、医療職俸給表(一)の改定状況を勘案し、医師の処遇を確保する観点から、所要の改定を行うとしています。他には、在宅勤務等を中心とした働き方をする職員については、光熱・水道費等の費用負担を軽減するため、在宅勤務等手当(月額3,000円)を新設し、令和6年4月1日から支給するとしています。病院では在宅勤務は難しいかもしれませんが、職務内容によっては、週に1~2日程度の在宅勤務は可能と思われますので、そのような場合に、今回の手当額を参考にされるとよいでしょう。

週休3日と兼業

現在、育児介護等職員については、フレックスタイム制の活用により、勤務時間の総量を維持した上で、週1日を限度に勤務時間を割り振らない日を設定することが可能となっています。すなわち、休みを取得した分は、他の勤務日の時間を長くすることで、4週で155時間という労働時間を維持し週休3日を可能としています。しかし、育児介護等職員以外の職員については、勤務時間法の規定で週休3日はできなかったため、今回、この法律を改正し、再来年の令和7年4月1日から施行できるよう求めたわけです。そして、柔軟な働き方の推進は、職員一人一人の能力発揮やワーク・ライフ・バランスの実現、健康確保を通じた公務職場の魅力向上につながるほか、公務能率の向上にも資するものであるなど、さまざまな必要性を挙げています。さらに、公務員人事管理の報告には「時代のすう勢に鑑みれば、民間の知見の習得など、職員の成長や組織のパフォーマンス向上等につながるような兼業についても検討していくことが必要である」としています。

交替勤務が多い病院においては、週休3日制は今後検討の余地が大いにあると考えます。看護師の勤務などは、少し勤務時間を工夫することで可能になるはずですから、国家公務員に先駆けて週休3日制を導入すべきでしょう。若い人材を確保するためには、給与を大幅に改善することも有効ですが、柔軟な働き方を推し進めることがより効果的であると推察します。
 兼業についても、病院では、かなり以前から医師に兼業を認めてきたわけですから実績があります。週休3日と併せて兼業を進め、看護師などにも広げることで、看護師自らのキャリア形成にも役立ちますし、事務職であれば、他院の知見を得て自院のパフォーマンスを上げていくことも期待できるのではないかと考えます。


【2023. 9. 1 Vol.575 医業情報ダイジェスト】