組織・人材育成

期待の新人さんの特技は…お片付けだった

現状を振り返って業務効率化を進めるケース
組織力アップトレーナー 株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
24年度同時改定に向けた議論が進むにつれ、「自院ではこういうことを準備しておいたほうが良いのではないか」といった具合に、経営層として自院への影響を想像されている方が増えてきました。診療報酬改定はその時々の社会情勢などを鑑みて行われるとはいえ、「仕事が増える」というイメージを持っている現場の方も多いと思います。本来、新しい仕組みを取り入れる際には現状のお仕事を振り返って業務効率化を進めるものですが、そのような業務の「お片付け」が得意でない人も少なくないようです。今回はそんな「お片付け」に関わるお話です。

ケース:

新興住宅地のすぐそばにある、駅ビル内のクリニックのお話です。このクリニックでは長年受付を担当されていたスタッフがやむなく退職してしまったため、新しい受付スタッフを探していました。
求人を出すと立地が良いからかすぐに問い合わせが入りました。若い女性で職場を転々としていることが伺える履歴書でしたが、面接をしてみるとハキハキと明るく答える様子に「このクリニックの受付にはこの人だ!」と院長先生は決心し、このAさんの入職が決まったのでした。

Aさんが初めて出勤した日の朝、スタッフの顔合わせが行われました。Aさんは自己紹介で「私の特技は片付けです」との発言があり、院長先生は「受付が雑多だと患者さんに悪い印象を与えてしまうから、その片付け能力を発揮してくれると良い」と期待したのでした。
ある日、院長先生は受付に置いていた必要な書類がいつもの場所に無いことに気が付きました。しばらく探すと、棚の奥のほう、手前の書類をどかさなければならないところに発見!院長先生は受付周りを「片付けた」というAさんに注意をしました。

院長先生「片付けてくれたのだと思うけど、これは毎日使うものではないけど使いたいときにすぐに見つかる場所にないと困るから元の場所に戻しておいてね」
Aさんは院長先生の言葉に納得していないような表情だったと言います。
上記のことを「本当に参りました」と筆者に報告する院長先生。

院長先生「気が付くとモノが今まであった場所から移動されていることが立て続けに起こっていて……。片付けてくれるのは嬉しいのですが、移動させたら報告するのが普通だと思うのですが、報告が無いのです。確かに受付周りはきれいになりました。受付としての仕事は丁寧でしっかり務めてくれています。でも、一人で仕事をしているのではありません。組織人としての基本である『報告・連絡・相談』が出来なければ、業務がスムーズに回るわけがありません。本当にどうしたものか……」

筆者「困ってしまいましたね。心労お察し致します。一つお伺いしますが、Aさんはどういう意図を持ってその書類を片付けたのでしょうか?」

院長先生「Aさんに聞いてはいませんが、多分、目の前のものをきれいにしたかったのではないでしょうか。こっちに聞いてくれれば良いのに、全く……」

筆者「なるほど、Aさんには確認していないのですね。ではその真意は分かりませんね。Aさんの片付ける能力についてはどう評価していますか?」

院長先生「本当に受付はモノが無くなりました(笑)。片付けの資格も取ろうとしていたようなので、その特技と思いは本物だと思います」

筆者「恐らく、片付けが好きな方や得意な方は、日常生活に困るような極端な片付け方ではなく、必要なものを取り出しやすいように工夫されていると思いますが、どう思われますか?」

院長先生「確かに…そうですね。しまうだけではなく、自分なりに使いやすいよう配置しているとAさんが言っていたことを思い出しました」

筆者「先の事例を思い出しましょう。『毎日使うわけではないが必要な時にすぐ取り出せるようにしたい』ということは伝えたようですが、その目的が果たせていたら元の場所ではなくても良かったのだろうと推察しますが、その理解で合っていますか?」

院長先生「確かに……。私はAさんがどういう思いで片付けたか決めつけるばかりでしたね。書類について説明していなかったわけではないはずですが、十分とは言えなかったのだと思いますし、違う場所のほうが使いやすくて見栄えが良いなら、そのほうが良いですね。早速、Aさんと話したいと思います」

このケース、どのような感想を持ちましたか?
院長先生はAさんの問題だと認識していたようですが、客観的に見てみると双方の認識不足によるコミュニケーションエラーであることが分かります。院長先生はこの後「Aさんとお話できてお互いにスッキリしました!もう少しでAさんのような能力のあるスタッフを手放すところでした」と語っておられました。職員の能力を正しく職場で活かせるためのコミュニケーションは取れていますか?このケースを参考に、ぜひスタッフとの関係性を見直されてはいかがでしょうか。


【2023. 12. 1 Vol.581 医業情報ダイジェスト】