組織・人材育成

求職者の「転職軸」に応える中途採用戦術

人・仕事・会社・待遇の4つの軸に分類される
株式会社ウィーク  シニアコンサルタント 長谷川 周重
2022年9月号において「求人情報は、求職者視点をコンセプトに」というテーマで、求職者視点の採用が採用の原理原則だと記した。あれから1年が経過したが、改めて「求職者視点とは何か」が今月号のテーマである。

●求職者の転職軸に応える

求職者の視点は人それぞれであるが、その中でも重要なのが「転職軸」に対応することだ。多くの転職希望者は、活動を始める前に「転職軸を決めるように!」と書籍や転職エージェント等に促されている。求職者にとって転職軸は、転職をする際に重視している条件のことであり、転職活動を成功させるためにとても大事なことだと教えられている。その条件は一般的に、人・仕事・会社・待遇の4つの軸に分類される。
軸は、求職者の希望であり、求人の絞り込みから最終意思決定まで大きく左右する。従って企業は、予め求職者の転職軸に合わせることで採用のミスマッチを防ぐことができ、優秀な人材確保を効率的に実現することができる。
では、具体的にどのような対応をとることが望ましいのか表に例としてまとめた。

表 求職者の軸と企業対応の例


実は、求職者側からすると、これら4つの軸は企業に対してとても聞きたいことであるにも関わらず、非常に確認しづらい項目でもある。その結果、お互いに牽制し合う形で適切な情報が共有されないまま入社してしまい、ミスマッチとなるケースが発生する。
 昨今、業界・業種に問わず人材獲得が困難になってきている。優秀な人ほど、複数の内定を獲得し、優秀ではない人はどれだけ受けても内定に辿り着けない。つまり2極化が進んでいる。その中でも採用を上手く成功させている勝ち組企業は、この4つの軸を徹底的に準備、対応をして採用活動を行っている。

1.人の軸
求職者は履歴書・職務経歴書を事前に提出して身元を明かしているが、企業側はほとんど開示されることがない。あっても面接時に名前と役職を名乗る程度の自己紹介ではないだろうか。また、採用になった場合に配属先で上司になる者は面接に参加せず、社長やエリア長クラス以上の面接官が採用を決定することが多い。その場合でもできる限り、社長や面接官から配属予定先のスタッフの人柄・経歴、組織体制などの説明をすると人に対する不安は軽減される。
2.仕事の軸
仕事の軸は、4つの軸の中でも現状をもとに説明をしやすいのではないか。得られる知識や経験というものは、面接を通じて確認し合える。キャリアパスは、特に1年から3年後のイメージ、入社後期待していることを説明できると良い。
3.会社の軸
会社の規模にもよるが、仮に1店舗の企業であっても、社長として、企業として果たしたい想いや目的を言語化して伝えることが大切である。特に複数店舗を経営している企業になると、経営者の意向と現場の意向にズレが生じやすい。中間管理職である面接官が、会社の目指すべき方向性をしっかり理解し、求職者に伝えないといけない。また、会社の良いところもしっかりとPRできることが大切である。役職者に対する教育や面接の進め方も、事前に確認しておくことが望ましい。
4.待遇の軸
この軸は、求職者側が世代を問わず重要視している。特に私が重要だと思うのは、入社をしてから給与がどのように決定され、上昇させることが出来るのかという点である。つまり、昇進・昇格、人事評価である。入社時に高待遇な給与を提示することも大切であるが、入社後ほとんど上昇が見込めない、上がっても月数千円程度だったという不満の声はいくつもある。むしろ、多少入社時の提示給与が渋かったとしても、その後、給与が上がる見込みや、賞与をアップできる方法等を示せると良い。

●最後に

4つの軸より、現在の中途採用のやり方と照らし合わせて点検をしてほしい。求人票や面接の進め方、オファー面談の導入など改善点はないだろうか。
例えば、面接をする前に5分だけ企業紹介のPVを見てもらう、面接を標準化するために共通の説明資料を用意する、中途採用向けのパンフレットや資料を作成するなどの方法がある。以前私の転職活動の実体験で、スタートアップの会社から社内報を受け取ったことがある。その社内報を家族にも読んでほしいと渡されたのだ。その会社は、アニバーサリー休暇というものを導入しており、該当月になると家族のために半強制的に休暇を与えていた。20年前の話だが、当時にしては大変衝撃的であったと記憶している。

中途採用の戦術は、他社も効果的手法に取り組めていないところが多いため実績を出しやすい。1つでも良いので転職軸に合わせた取り組みをスタートしてみてはいかがだろうか。


【2023.12月号 Vol.331 保険薬局情報ダイジェスト】