組織・人材育成

同じメンバーでも役割が変わると…

組織の中の「役割」にフォーカスしたワーク
組織力アップトレーナー 株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
近年、少子高齢化に伴い労働人口が減少していくなかで、医療の分野でもさまざまな職種同士で業務の効率化を前提としたタスクシェア・タスクシフトを行わなければならない流れとなっていますね。納得感のあるタスクシェア・タスクシフトを進めていくには、職種それぞれの役割を意識することが重要です。役割というと、意識しているか無意識かによらず組織の中で自然と「発言する役」や「雰囲気を盛り上げる役」、はたまた「発言せず聞き役に徹する役」など、人は役割を演じているものです。環境が人を作りますね。今回は組織の中の「役割」にフォーカスしたワークを行ったクリニックのお話です。

ケース:

にぎやかな商店街の中にあるクリニックのお話です。このクリニックの課題は、スタッフ一人ひとりが「仕事をチームで取り組んでいる」ことにあまり意識が向いていないためか、報連相が上手く機能しておらず、スタッフ間の連携によるインシデントやアクシデントが発生していることです。そこで、自分たちのチーム力を高められるように筆者が院内研修を実施することになりました。
このクリニックでグループワークを行うと、発言者が偏っていたり、基本的に発言数が少なく、何か決めるときには「その意見で大丈夫です」という発言しか出ない方がいるなど、スタッフ間での振る舞いが固定化され過ぎていることが気になっていました。そこで筆者は、あえて異なる役割をクリニックの皆さまに与えることの影響を探ることにしました。
6人1グループとし、6枚の厚手の紙に以下の話し合いにおける6つの役割をそれぞれ書き、誰がどの役割を与えられたか分からない状態にした上で「チームワークを高めるために意識したいこと」というテーマに沿った話し合いを行ってもらいました。

【役割一覧】
  1.  みんなの意見を聞いてまとめ、話し合いを進める司会の役割
  2.  何にでもひたすら質問する役割
  3.  話し合いが進むようなアイデアを考え、みんなに伝える役割
  4.  相槌をうったり、ほめたりする。また、意見を言っていない人に声を掛け、勇気づける役割
  5.  最後に発表出来るよう、意見を紙に書き、全員に分かるようにする。記録の役割
  6.  他の人の意見を聞かないで自分の意見だけをいう役割

このワークのポイントは与えられた役割を徹底的に演じること!ワーク終了後にそれぞれがどの役割だったか当たれば成功として、ワークが開始されました。
最初のワークで役割カードを配った際、司会の役割になったのは副院長先生。副院長先生が司会を進めて話そうとするも、他のメンバーは委縮したようで発言が無く、誰も役割を全うすることができません。
カードを配りなおした次のワークでは、司会の役割になったのは普段あまり発言は無いけれど実は非常にユニークな発想を持つ若手スタッフ。突然司会として場を仕切ろうとする様子にスタッフは思わず笑顔に!そのほかのメンバーもそれに釣られるように各々の役割を全うすべくいつもの自分とは違う役割を演じることができました。

その後のスタッフ同士での振り返りの中では、
  •  副院長先生が司会だった時には普段と変わらない感じがしたが、いつも司会をしないスタッフが司会を行うことで場が和み、発言がたくさんでてきたのが印象的だった。
  •  役割を与えられることで同じメンバーなのに空気感がガラッと変わる体験は非常に面白いと感じた。
  •  (最初のワークで2番になったスタッフの発言)一生懸命質問しようと思ってはいたが、なかなか話に入っていけずモヤモヤした。入職当初は質問があってもなかなか発言できなかったことを思い出した。新入職員も同じ気持ちかも知れないと、役割を与えられてその人の気持ちになることができた。
  •  普段のカンファレンスでも取り入れることでチームが活性化すると感じた。
と言った振り返りが聞かれ、自分たちのチームにおける役割やチームそのものを振り返る機会になったのでした。

このケース、どのような感想を持ちましたか?同じメンバーでも役割を与えることでいつもと違ったグループダイナミックス(人の行動や思考は、集団から影響を受け、また、集団に対しても影響を与えるというような集団特性)を体感することができたという事例です。いつもと違う立場に立ってチームを振り返ることで、チームの課題やチームの良さを発見できる可能性は高いと感じます。チームの話し合いがマンネリ化しているなと感じておられましたら、ぜひこの役割ワークに挑戦されてはいかがでしょうか。


【2023. 12. 15 Vol.582 医業情報ダイジェスト】