組織・人材育成

昇格昇給のある賃金制度

毎年の習熟昇給額を抑え、昇格昇給額に重きを置く
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
賃金制度を新しくした病院で、翌年の昇給時期によく質問されるのが、昇格(等級が上がること)した人の賃金をどのようにしたらよいのかということです。今まで、職員が昇格した時でも、本給はあまり変わらないという運用をしてきた病院が多いため、このような質問がされるのだと思います。
そこで、今回は、昇格昇給の仕組みのある賃金制度について考えます。

毎年の習熟昇給額を抑え、昇格昇給額に重きを置く
賃金表を作る際、昇給額については、毎年の定期昇給分(習熟昇給分)と昇格昇給分に分けて設計します。例えば、21歳新卒の看護師が標準的に昇格していった場合、41歳で師長の6等級まで昇格するとします。新卒看護師の初任給を220,000円、師長1年目の6等級の初号賃金を320,000円とすれば、20年間で100,000円昇給するわけですから、毎年5,000円ずつ昇給していけばよいことになります。

今回は、この5,000円の内2 ,000円を習熟昇給額、3,000円を昇格昇給額として、賃金表を作成してみようと思います。すなわち、「昇格昇給額1.5対習熟昇給額1.0」の割合で賃金表を設計したものが図に示したサラリースケール(賃金表の設計図)です。
賃金表の作り方が書かれた昔の書籍には、「昇格昇給額1.0対習熟昇給額1.5」の割合で、賃金表を作成すべきとあります。しかし、病院経営が厳しい今日、同じ等級で同じ仕事をし続けている職員の賃金を上げるよりも、組織に貢献し上位等級に進む職員の賃金を一気に持ち上げたほうが、職員の意識を高められ、上位等級へ進もうという意欲を引き出せるのではないかと考え、図のような賃金設計にしてみました。

サラリースケールの内容を説明すると、専門学校卒の看護師の場合、2等級からスタートし、4等級までは、在級年数や人事評価の結果等に基づき、昇格していきます。標準的には、29歳で4等級になりますが、その後は、主任など、上の役割を担わないと昇格できない役割等級制度とした場合、4等級は上限年数12年としたので、41歳で281,600円の上限額に到達し昇給は止まります。すなわち、一般看護師の上限賃金は、281,600円になります。
初めに決めた習熟昇給額2,000円は、6等級と2等級の真ん中の4等級にセットし、下位等級では約1割下げ、上位等級では上げるようにしています。上位等級に進むに従い、毎年の昇給額が増えるのは、職員にとって納得できる形と考えます。昇格昇給額は1年で3,000円を確保しましたから、モデル在級年数に3,0 0 0円を掛けた金額が、原則として、昇格昇給額となります。この計算でいくと6等級への昇格昇給額は5等級に6年在級するのがモデル年数ですから、3,000円×6年=18,000円となるはずですが、6等級の初号賃金を320,000円と決めていますから、この金額になるように、19, 200円に修正しました。すなわち、5等級の初号賃金287,600円+2,200円×6年(5等級のモデル在級年数)+19,200円=320,000円となります。

優秀な人材に報いる公正な賃金
頑張って昇格しないと、賃金は各等級の上限賃金で止まります。逆に昇格すれば、基本的には、毎年の習熟昇給額に昇格昇給額を加えた金額が昇給します。また、モデル年数よりも早い年数で昇格すれば、昇給額は、さらに膨れ上がります。優秀な人材に賃金で魅力を感じてもらうためには、上位等級に早く昇格していくことで賃金水準が高くなり、逆に昇格しなければ昇給が止まってしまう、公正な賃金の仕組みにすべきと考えます。

もちろん、職員全員が高い賃金を得ることができれば、それに越したことはないのでしょうが、少子高齢社会で、職員の平均年齢が高くなっていく時代に、そのような賃金体系を維持することは、病院の経営面から困難です。少なくとも頑張った人が報われるメリハリのある公正な賃金体系とすべきでしょう。
ちなみに、図に示した賃金設計では、2等級の上限賃金は232 , 80 0円、3等級の初号賃金は、238,400円なので、全く重なっておりません。当然、その上の等級においても同じです。このような賃金表を開差型と言いますが、現状の病院の賃金の状態が年功的な体系の場合、いきなり、この形を導入することは難しい面もあると考えます。しかし、賃金移行の緩和措置を取りながら、あるべき姿に近づけていかなければ、将来、人件費の膨張と職員のモラールの低下を招くことになると危惧しますから、賃金制度の見直しは、早急に取り組むべきと考えます。




【2022. 7. 1 Vol.547 医業情報ダイジェスト】