組織・人材育成

ネガティブな感情を受け入れることで行動変容を促しやすくする

発言を振り返ることで行動変容の促し方に気付きがあったケース
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
今年も梅雨入りの季節になりましたね。季節の変わり目は人も組織も調子を崩しやすくなりがちですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。今回は院長先生がご自身の発言を振り返ることで行動変容の促し方に気付きがあった事例から、より良い組織の在り方を考えましょう。

ケース

以前、ご紹介した「大丈夫が大丈夫ではなかった」ことに気が付いた院長先生が、新人定着率を上げるためにスタッフとの関係性がより良くなるよう行動を開始したケース(5月15日号掲載)の続編です。院長先生にとって未踏の地だったお昼休憩中のスタッフルームに意図的な潜入を開始して2ヶ月経った時の出来事です。

この日もお土産のチーズケーキを手にスタッフルームに突入した院長先生。最初は距離を感じていたスタッフの態度も徐々に軟化してきました。この日の雑談テーマは院長先生の最大の悩みである新人について。「新人さんはどう?」と聞いてみました。

※ このクリニックではスタッフ間の信頼関係構築のためにコミュニケーションボードを運用しています。スタッフ間で質問したいことを書き合うことで、お互いのことを知るツールとなっています。

スタッフA 「実は新人さんにコミュニケーションボードに参加して下さいと提案したのですが、断られました」
Aさんは笑顔ではありましたが、内心憤りを感じていることは伝わってきます。

スタッフB 「そう言えば、私も新人さんに『何か分からない点や質問はありますか?』と聞いたら『特にありません』と言われてしまいました」
BさんもAさんの意見に同調するように新人に対する印象が良くないことを訴えます。

院長先生は『新人が悪い』という雰囲気を変えたい一心で「でも新人さんは頭の中の容量が新しい情報で一杯になってしまっている状況だと思うから、アウトプットすることは今難しいかもしれないね」とスタッフに伝えたところ、AさんBさんは何とも言えない表情になったと言います。

上記の内容について報告を受けた後、私から質問をしました。
上村 「スタッフルームに行く目的は何ですか?」

院長先生 「スタッフに私を自然に受け入れてもらえる関係性を築くためです」

上村 「スタッフに受け入れてもらうには院長先生自身がスタッフを受け入れる姿勢も必要ですね」

院長先生 「おっしゃる通りです」

上村 「先のスタッフのとのやり取りを思い出しましょう。なぜ最後にAさんとBさんの表情が曇ったままだったのでしょうか」

院長先生 「そう言われてみると…AさんとBさんの訴えに対して新人に悪い感情を抱かないように新人をかばう発言をしましたが、AさんとBさんの気持ちを考えていませんでした…。AさんとBさんは新人さんがクリニックの環境に溶け込めるように働きかけを行ったのに思うような反応を得られず悲しかったと思うのですが、その気持ちに全く寄り添っていないことに今気が付きました」

上村 「そうですね。何か問題が起こった場合に、その解決のためのアドバイスも必要です。しかし、特に今回のように問題を訴えたAさんBさんにとってネガティブな内容である場合、アドバイスの前に『ショックだったね』『新人さんのことを考えてくれてありがとう』など、AさんBさんの気持ちを慮った発言があった方が彼ら自身の気持ちを整理しやすくなり、行動変容を促すことに繋がります。誰しもモヤモヤした気持ちのままでは新しい行動に移りにくいものですよね」

院長先生 「おっしゃる通りですね。スタッフルームに行く目的はお互いを受け入れられる環境を整えることでした。コミュニケーションの基本である『目の前の人に興味を持つ』ことを癖付けできるよう、今後もスタッフルームに行くトレーニングを続けたいと思います!」

このケース、どういう感想を持ちましたか?
この院長先生のように、スタッフからの困りごとの相談に対して、まず問題の解決策を伝えることを優先し過ぎていませんか。ケースバイケースで解決策が直ちに必要な場合ももちろんあると思います。しかし、スタッフが問題に対して気持ちの整理ができておらず、ネガティブな気持ちを抱いている状態のままでは解決策を示しても色々な理由を付けて行動を起こさないこともあると思います。この後、先生はなるべく気持ちを汲んだ発言を優先して伝えることを意識したところ、自分が伝えたいことがスムーズに伝わりやすくなったと語ってくださいました。院長先生曰く「こんな小さな心遣いでこんなに仕事がしやすくなるとは思わなかった」とのこと。相手の行動変容を促したかったら、どんな行動を起こして欲しいか訴える前に、相手の気持ちに寄り添い、受け入れることを意識されてはいかがでしょうか?


【2022. 7. 1 Vol.547 医業情報ダイジェスト】