組織・人材育成

公務員の定年延長から病院職員の定年延長を考える

定年延長に向けた賃金カーブの見直し
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
令和3年6月11日に、国家公務員法等の一部を改正する法律と地方公務員法等の一部を改正する法律が公布され、昨年4月から施行されたことにより、公務員の定年が段階的(2年に1歳ずつ)に引き上げられ、65歳まで延長されることになりました。公務員の定年年齢が徐々に引き上げられるのにともない、病院でも、今後65歳定年延長に踏み切る所が増えていくと思われます。そこで今回は、病院職員の定年延長について考えます。

定年延長に向けた賃金カーブの見直し
病院は年功的な賃金体系の所も多くあることから、単純に定年年齢を引き上げるだけでは、人件費が増えてしまう恐れがあります。また、若年労働力人口(15~34歳)が減少し続けている今日、若い人材の確保は組織の存続において最重要課題と言えます。
そこで、定年延長にともない、賃金カーブを見直してはどうかと考えます。参考までに、年功的な賃金カーブを定年延長に向けた賃金カーブへ改善するイメージを、実際に支援した病院の事例を若干変えて図にしました。見直し前の現行のカーブ(点線)は、年齢が上がるにつれて賃金が上昇し、55歳で定昇をストップし54歳の賃金を60歳まで維持して、60歳定年再雇用で定年時の賃金の70%に下げた形にしています。これに対し、見直し案(新、実線)は、若い人材の確保に向けて、40歳位までの賃金を改善し、40歳から50歳はほぼ現行と同程度とし、50歳近くから徐々にカーブを寝かせて、60歳から5%ずつ下げていく案としています。公務員のように、定年延長であっても賃金は70%に下げるというのでもよいでしょうが、折角定年を延長するのですから、徐々に下げることとし、この部分の賃金改善を行うことで、50歳以降の賃金を寝かした分を60歳以降でカバーする案としています。丁度50歳位で新制度へ移行する職員は、現行では40歳位までは新制度より低い賃金で推移してきて、その後54歳まで賃金が持ち上がっていたわけですから、このカーブを寝かした分を60歳以降でカバーする形になります。なお、40歳位までの若い人材については、賃金改善をした部分が生涯賃金の増加となります。すなわち、40歳位までの若い労働力の確保に向けた賃金改善ということになるわけです。

このための原資をいかに確保するかですが、令和6年度の診療報酬改定のような、ベアを実施するための特例的な対応等があれば、その分を活用できるかもしれません。しかし、根本的には、退職金制度を見直すことが考えられます。

定年延長に向けた退職金制度の見直しと早期退職優遇制度の導入
筆者が支援した法人では退職金制度が恵まれており、1年勤務すれば退職金を受け取れるのですが、退職金の役割の1つに、労働力の定着と永年勤続の期待(勤続奨励)が挙げられることから、これを5年にしようという案が出ました。ちなみに、古い調査ですが、医療経営情報研究所が平成27年に実施した病院の退職金に関する実態調査によれば、退職金の受給に必要な最低勤続年数(自己都合退職)は、1年が11.8%、2年が19.7%、3年が56. 6%、5年が5. 3%などとなっています。
また、65歳まで正職員として働き賞与も支給されるのであれば、退職金の老後保障としての役割も小さくなるわけですから、退職金額を下げるような見直しも可能と考えます。なお、定年延長を行い定年時の基本給が、図に示したように、現行より大幅に下がる場合には、従来の基本給連動方式の退職金制度では、5年間、勤続年数が長くなっても、退職金は下がるでしょうから、基本給連動方式をポイント制に切り替えるべきでしょう。この見直しにより、在職中の功労に対する報酬(功労報奨)という退職金の役割を果たすことができます。何故なら、ポイント制退職金制度は、等級や役職ポイント、人事評価ポイントなどを設定し、上位の等級や役職に長く就いたり、人事評価の結果がよくなることで退職金が高くなる仕組みだからです。
このような見直しをした際、60歳で退職して第二の人生を考えていた50歳位の職員は、突然、図で示した賃金に替えられるのですから、カーブが寝た部分を60歳以降にカバーすることができません。このような人をフォローすることと、職員の高齢化を抑える目的で、60歳の早期退職優遇制度を併せて導入してはどうでしょうか。すなわち、60歳で退職する職員の退職金の割増を行い、予定していた第二の人生を支援すべきと考えます。

図:賃金カーブ(看護師)のイメージ



【2024. 3. 1 Vol.587 医業情報ダイジェスト】