組織・人材育成

ベースアップ評価料と賃金戦略

病院の昨年の定昇とベアの実施状況
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
令和6年度診療報酬改定で新設された「ベースアップ評価料」の形がある程度見えてきました。
厚生労働省保健局医療課の説明資料には、「ベースアップ評価料の算定要件は、当該評価料による収入を原則、全額ベア等に充てることです。その上で、さらに今般の報酬措置以外の収入や、税制措置も活用しながら、令和6年度ベア+2. 5%、令和7年度ベア+2.0%の目標へのご協力をお願いします」とありますから、まさに、医療機関のベースアップを行うことを目指したものであることは言うまでもありません。
現在の社会情勢を見ると、令和6年1月時点の18歳人口は106万人で、前年と比べ6万人減少し、数年先には若い労働力の確保が今以上に厳しくなることが想定されています。すでに医療・福祉系の専門学校などは、学生の確保に大変苦慮していると聞きます。また、昨年の春闘は、日本経済団体連合会の調査によると、大手企業が16業種136社の加重平均で13,362円(3.99%)と対前年比5,800円増(1.72ポイント増)となるなど、30年ぶりの高水準でした。そして、今年の春闘は連合、経団連ともに昨年以上の賃上げを目指しており、昨年を上回る結果になると思われます。

このような時期に、医療従事者の賃金水準を上げなければ、人材が医療の世界に入ってこなくなることが危惧されます。そこで今回は、ベースアップ評価料と賃金戦略について考えます。

病院の昨年の定昇とベアの実施状況
ベースアップ評価料は、定期昇給とは別に、基本給又は決まって毎月支払われる手当の引き上げに充てることとされていることから、まさにベースアップに充てるための財源になります。
念のため、定期昇給とベースアップの違いを確認しておきましょう。賃金表(ベースと称する)は、基本的には、社会情勢の変化に応じて書き換えなければならないものです。物価が高騰する中、賃金を引き上げなければ実質賃金が下がってしまうわけですから当然のことではあります。すなわち、ベースと呼ばれる賃金表をアップすることをベースアップ(略してベア)と言います。さらに細かく言えば、一般的に、基準内賃金の引き上げをベアと考えてよいのですから、基準内手当の引き上げもベアに当たります。これに対して、定期昇給は、1年経験を積むことで能力等が上がると考え、職員の賃金を賃金表の中で上方へ移動させることを言います。
医療経営情報研究所が、昨年4月下旬頃に病院における賃上げ状況を調べた結果によると、定期昇給を実施した病院が82.7%、実施しない病院が11.2%、他未定等でした。また、ベアについては、実施が18.3%、未実施が51.6%、他未定等でした。今回の診療報酬改定により、ベア実施率が大幅に上がることが期待されます。ちなみに、医師を除いた職員の定期昇給の平均の昇給額は3,807円で昇給率1. 5%となっていましたから、今回の
ベースアップ評価料が目指す2.5%が実現されれば賃上げは4%となり、昨年の大手企業の実績と同程度となります。

ベースアップ評価料の概要と賃金戦略
今回の診療報酬改定では、物価高に負けない賃上げの実現を目指し、①病院、診療所、歯科診療所、訪問看護ステーションに勤務する看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種の賃上げのための特例的な対応として+0.61%の改定、②40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置として、+0.28%程度の改定を行い、医療従事者の賃上げに必要な診療報酬が創設されたとのことですので、おおむね医療機関のすべての職員の賃上げを目指したものになります。

ベア等の具体的な手順としては、2月16日に「ベースアップ評価料計算支援ツール」というものが公表されましたので、これに必要事項を入力するとベースアップ評価料の算定見込みの計算が行われ、医療従事者の賃上げに使える金額が分かります。そして、実際に、この金額に見合うベアをどのように行うかが賃金戦略となります。スケジュール的には、6月に賃上げを実施しなければならないわけですから、それまでに、賃金引き上げの計画を作成し、計画に基づいて労使交渉を行い、給与規程を改正し、6月に施設基準の届出を行わなければなりません。
基本給を上げるか、基準内手当を上げるか、あるいはどちらも上げるかは病院の判断でしょうが、賃金戦略としての賃金表の見直しを考えた場合、物価高に対応するのであれば一律定率で賃金表を見直すべきと考えますが、人材確保という面で考えればベアの配分を若い年代層に厚くすべきでしょう。

人材確保や医療従事者のモチベーションという面で賃金戦略を考えるべき時期でもあり、今回の評価料を活用して、賃金表や役職手当等を戦略的に改善することが必要ではないかと考えます。


【2024. 3. 15 Vol.588 医業情報ダイジェスト】